苦 酒

 1972年4月29日、職場で山好きの友人小原氏と私は、岩木山の百沢コースを登っていた。「ビールは買ったけど酒はあるか。」と聞くと「ある、家から持ってきた。」と言うことで、安心して登る。登り始めたのが遅いため、この日は焼止ヒユッテに泊まることにした。
 残雪がヒユッテの周りをおおい、水には困らないが翌日の事を思い、凍らないうちに水を確保していると、弘前方面に岩木山の影がくっきり映った。いい眺めだった。小屋に入り早速乾杯となったが、すぐに飲み干してしまい「酒にすっぺ」の言葉で事件は始まった。
 取り出したのは、ブランデーらしかったが、容器が見たことのない形でいやな予感がする。「まあまあ、飲めや」と注いでもらい口に含むと、渋く苦い。新種の酒かと思いそのまま飲んでしまった。 がー、持ってきた本人はぺッと吐き出した。「エッ何で、だめなの」ともう一度口に含むが、やっぱり苦かった。
 よく見るとその容器は、確かに見覚えがある。当時、流行ったバイタリスと言う整髪料の容器だったのだ。今ならペットボトルという便利な容器が有るが、ラベルをはがし入念に洗ってきたものの、苦い原因はフタにあつた。フタの内側の中心部には、小さな穴がありその奥に整髪料が残り、背中で揺られまんべんなく混じってしまったらしい。近頃も何とか混入事件が多発しているが、この日も一大事であった。飲める酒がない。
 二人でガタガタやっていたが、隣りは地元らしい3人パーテイが、美味そうに飲んでいた。つい、その方向に二人の目が流れてしまう。見かねた3人パーテイは、「良かったらどうぞ」と酒をさしだしてくれた。丁重にお礼御言って、ありがたくごちそうになった。美味かったが、ほろ苦い酒だった。
 翌日は、このパーテイとは別行動となったが、別れ際に白神山地やロッククライミングの話で盛り上がった。その後どうしているだろう。
 
青森には、いい人がいっぱいます。ありがとうございました。