Sekiyan's Notebook セキやんのe講義 経営

セキやんのe講義 −経営の巻−


第26回 経営者の勘違い その1

第27回 経営者の勘違い その2

第28回 経営者の勘違い その3

第29回 経営者の勘違い その4

第30回 経営者の勘違い その5

第26回 経営者の勘違い その1 (2001年4月1日)

花か実か
結論から書くと、「企業の目指すべきは、花ではなく実」である。このことは、いかなる企業にも共通する原則といえるだろう。
また筆者も関係している新規事業立ち上げ支援において、その対象者の多くは保有経営資源が希薄なだけに、マスコミ等を活用することは事業展開を図る上で一つのポイントであるのも事実だ。
これは、いわゆるマーケティング手法における4P(プロダクト=製品、プライス=価格、プレース=流通チャネル、プロモーション=販売促進)のうち、プロモーション中のパブリシティ部分に当たる。
今や行政もマスコミもこぞって新規事業へ注ぐ視線は熱く、話題として取り上げられやすい。その今時のフォローの風に乗って、プロモーションの要素の一つであるパブリシティを活用するのは決して邪道ではない。
それだけに、創業者にとって比較的容易なマスコミ媒体への登場がそのまま事業の成功へ直結するかのような勘違いに陥ることが少なくないようだ。
周囲に「テレビで見ました」「新聞で拝見しました」などとちやほやされ、肝心の事業そのものの取引とは関係のない部分に労力を使うことになる。
いわゆる「花」を咲かせることに、エネルギーを使ってしまい疲弊消耗してしまうことになる。
一方、本来的にパブリシティでPR効果をしっかり得る賢い創業者は、この場面では冷静であり、客観的に状況を見ることができ、さらに事業そのものの「実」を取るべく、成果を目指して事業のステップアップを図る。
ここが勝敗の大きな分かれ目である。
これは何もベンチャー企業に限ったことではなく、業歴のある企業でも同じことが言えよう。
そして、この先はパブリシティ頼みを脱却し、広告・セールスプロモーション・人的販売にシフトして計画的に自前投資することになる。そこではじめて、企業体としての独自性が発揮できる。
マーケティング戦略の成果が出ない最大の原因は、手法を間違えたことよりも本気でやらなかったことにあるといわれる。
つまり、PR活動のアナタ任せは所詮「花」を見せて人の目を引く単なるきっかけ作りに過ぎず、大事なのは自らがコヤシをやって「実」を育てることにこそ真の事業成果があるという信念だ。
さらにここからは、フォーカス(絞り込み)とミックス(組み合わせ)を意識していくことになる。
従来手法はどのようにミックスするかという戦術面に勝ち過ぎていたが、これからはフォーカスに力点を置き、どこに狙いを絞るのかという戦略的な部分に大いにエネルギーを使うべきである。
「実」を取ることにおいて、フォーカスは効果性で、ミックスは効率性だから、もともと効果性のないところでいくら効率を上げても成果は出ない。そればかりではなく、逆効果の方に能率が上がってしまい、破綻のスピードを上げることにつながる。
いくら絶妙な「花」を組み合わせても、狙いどころが誤っていれば「実」はつけられないことを肝に銘じねばならない。

第27回 経営者の勘違い その2 (2001年4月11日)

実力の尺度
中小企業の経営者に「あなたは、経営者として同業者100社中何番目か」とアンケートしたところ、約九割の経営者が「上位十番以内」と答えたというが、どう計算しても帳尻が合わない。
それが正直な回答だとすれば、この数字の矛盾はどこからくるのだろう。
トップの宿命として、親身になって諌める人を持ちにくい、弱みを見せられない立場であること、など経営者が勘違いする材料には事欠かない。
なかでも、その多くの部分は、実力ランキングの頭数と中身を混同しているという経営者自身の勘違いにあると考えられる。
その勘違いを解く鍵として、パレートの法則がヒントになる。これは、経営者の「実力」とそこから派生する「効果」の関係にピタリと当てはまる。
その起源は、今から100年ほど前、イタリアの経済学者ビルフレート・フェデリコ・パレートが、当時の貯蓄残高の保有について調査し、「富は少数の人に片寄って所有される」と結論付けたことにさかのぼる。
以後、ABC分析や2−8の法則などと呼ばれ、製造現場の不良原因の解析や営業マンの実績の解説などに用いられてきた。
念のために内容をおさらいすると、全体の成果(結果)の75%が頭数順位100人中上位20位で産みだされ、次の20%の成果は続く60位までの頭数40%の順位のグループで産出され、残りわずか5%の結果が最後60位以下の頭数40%のグループで出すものである、という理論だ(成果の割合については、解釈によりまちまちである)。上位のグループから順にA、B、Cとすると、Aグループは頭数あたり3.75の成果、Bグループは同じく0.5の成果、Cグループは頭数あたり0.125の成果しか出せない。Cグループの成果を基準にすると、Bグループはその4倍、Aグループに至っては何とその30倍の成果を出していることになる。
社長の実力すなわち「実業の成果」は、少なくとも30倍の違いが出てくるということになる。さらに踏み込んでみると、上位10%で何と成果全体の50%まで占めるので、この場合は40倍もの差が生じる。ある意味では残酷なようだが、これが現実の経営能力の差なのである。
そして、全業種で黒字企業がわずか30数%にとどまっている現状と照らし合わせると、上位10%の経営者とは、黒字企業で、しかも同業種の中では利益率などの経営指標で他社の40倍以上のものがなければ、そのランクに該当しないことになる。
みずからの経営実力に対して勘違いをしていても、それが通った時代もあったし、そんな時代を経て、現代の社会基盤もできてきた訳である。
また、成功体験は幾多の失敗を乗り越えてこそ身に染みる訳で、その意味で、勘違いを自覚するまで待つ以外に方法はない。
しかし、心ある経営者は、その責任において、現在の経営環境と自らの実力を客観的に見直し、経営力向上の努力を即座に始める賢明さを持つべきだ。
そのことが、経営エネルギーを社内に充満させ好循環の企業風土を作ることにつながっていく唯一無二の原則なのである。

第28回 経営者の勘違い その3 (2001年4月21日)

ナンバー2の役割
数百年続く和菓子の老舗でも、毎日が革新の積み重ねだというが、かのドラッカーもいう通り、「イノベーション」は経営の重要なポイントの一つである。
通常は「技術革新」と翻訳されるが、むしろ中国で使われている「創新」という字句の方が、本来の意味からすると的確だ。
いずれにしても、元気な企業・業績の良い企業に見られる共通項であるが、これはトップの積極性によるところが多い。しかし、企業経営はバランスでもある訳だから、何でもかんでも積極的に攻めるのが良いとは限らない。ここにナンバー2の役割の重要性がある。
つまり、イノベーション経営のハンドルを握るトップの積極性をチェックして、方向のずれを直したり、大事故を起こさないようにブレーキをつとめる役目である。
その点で、日本には古くから商家の知恵として「番頭さん」という優れた制度があった。番頭さんは、でしゃばることなく主人を立て、しかし押え所は心得て主人の独断先行に歯止めをかけ、商いを継続させ後継ぎにしっかり受け渡す任に徹した。
翻って現代、経営者が次の社長を決めようとする時、「帯に短し、たすきに長し」論を持ち出すことがあるが、既に述べたことを認識しさえすれば、そんな悩みに時間を浪費することはない。
つまり、トップの最大の役目は「イノベーション」であること、また経営はバランスであるという原則からして、ナンバー2は抑え役機能が優先されなければならないことから、自ずと次期社長に相応しい人材と、ナンバー2で能力を発揮する人材の判断はつけられるのである。
だから、ナンバー2を立派に務めることが、トップ抜擢への理由にはならない。
よく大企業でも、「何人抜き」のトップ人事が話題になるが、これはまさに、ブレーキを踏むことに慣れた上位役員より、斬新な感覚を保持している下位役員の方が、イノベーション経営の担い手にふさわしいという判断の典型的な例である。
人の持ち味はそれぞれであるが、企業という組織においては、適材適所の人材配置を行なって、各人の持ち味を生かすことも、トップに課せられた大きな役割である。
経営資源が決して十分でない中小企業であればなおさら人的資源を見極める繊細さが余計に求められる。
さて、そのナンバー2にどのような役割を求めるべきかとなると、一言でいうと「良識」だろう。これは、トップの行き過ぎを諌めるということだけでなく、経営判断を「損得」でなく「善悪」で為すことの基本となるからだ。
いかに営利企業といえども地球規模で人類へ与えられた課題は避けて通ることはできない今、高度成長期のように社会環境を二の次にしては、企業自体の存続がおぼつかない。つまり、経済的付加価値と社会正義のバランスをはかる為には、善悪の尺度をしっかり持った「良識」が不可欠になるからだ。
勿論、トップもこのような素養を持つに越したことはないが、往々にしてトップの「攻める」という使命と矛盾しがちになるので、どうしても歯止めとしてナンバー2で抑えておきたい部分なのだ。

第29回 経営者の勘違い その4 (2001年5月11日)

弱肉強食と適者生存
ビジネスの世界は、「弱肉強食」だとよく言われるが、本来は「適者生存」と表現すべきだろう。つまり、経営環境に適応した企業が生き残り、相対的に業界でのシェアを高める。そのことが、結果として「強者」と称せられるのである。
現代の人類に至るまで、地球上では有史以来何億年もの時間を掛けて、幾多の種の変遷を経てきた。その間、各時代において俗に言う「強い」生物は数多く存在した。1〜2億年前の中生代の恐竜などが代表格だが、今に生き残ることはできなかった。
また、有力経営者の「小売業は、環境適応業である」という主張はあまりにも有名だが、こと小売業ばかりではなく、製造業にしろ建設業にしろ、すべての企業活動の基本は、市場ニーズに応えることであり、そしてそれは時代と共にとても移ろい易いという特性を持っている。
従って、少し前まで「強者」だったGMS(総合小売業)といえども、今のモノ余り時代に、総花的な品揃えを繰り返しているようでは、恐竜の二の舞になりかねない。さらに、今は破竹の快進撃を遂げている「ユニクロ」でさえも安閑としていられない。すでに子供達の間では「他のみんなも着ているから、学校には着て行きたくない。」という動きが出ているという。
こうした顧客状況の変化を先取りし、その変化以上のスピードで対応していくことが、企業に望まれる必須要件なのだ。
ある調査会社によると、近年の企業倒産は、社歴20年以上の会社が全体の6割を超し、30年以上だけで3分の1を占めるということだ。
その中には、いずれも老舗と言われ、かつては羨望の的でさえあった企業が目白押しだ。そして長年の伝統や習慣が、逆に創意工夫や新しい発想にブレーキをかけているのが共通点である。いかに一世を風靡した「強者」であっても、環境に対して硬直化した途端に「強者」たり得なくなってしまい、一気に「弱者」化し淘汰されてしまう。
こうした意味では、企業規模やのれんといった「量的」要素ではなく、時代を読むセンスと戦略を実行するしたたかさのような「質的」要素が、経営力を判断する上での重要な尺度となる。そして、それこそが「強さ」の構成要素でもある訳だ。
従って、企業業績を左右するといわれるシェアや規模を高めることに経営者が注力することは当然であるが、一義的にそれを求めてはならない。あくまでも、自社が環境へ対応する「適者生存」のプロセスとして、みずからの企業の「イノベーション(創新)」を継続し、その結果として、他社との差別化がはかられ優位性が確保されていくのである。
これは原理原則に関わる部分であり、いつの時代でも通じる不変の摂理である。そして、特にこの混沌とした経営環境下では経営の付加価値を創出するのに欠かせない過程である。この「適者」化への実行力こそが、まぎれもない「強者」の尺度となる。
中小企業経営者は日常に追われるあまり、「強さ」という結果に目が向きがちだが、成果の源泉は「適応する」プロセスにこそ隠されていることを再認識すべきである。

第30回 経営者の勘違い その5 (2001年5月21日)

技術か需要か
企業の活力の源であるイノベーションは、テクノロジー・プッシュなのか、デマンド・プルなのか。
言いかえると、技術および科学が経済活動を後押しするのか、需要が活性化させるのか、という両面からの検討である。
学問的な結論は、双方が必要だということだが、企業サイドから観ると、少しニュアンスが違ってくる。
企業(当然ながら、ここでの企業という概念は、息をひそめて既得権にしがみつくしか能がないような、つまり昨今、淘汰候補企業イの一番のようなところはもとより範疇外だが)は、常に事業ネタを求めるもので、そのために、あらゆる方法を模索する。
この際重要なポイントは、企業側にプッシュできるものがあること、それが社内で共有可能な目的になり得ること、そして何よりもそのトップが腹をくくること、以上の要件が揃えば、一気に全社のベクトル合わせが実現し、市場からプルされる質の高い商品やサービスを創出することになる。
つまり、主観で構わないから、これぞという自社経営資源のオリジナリティを見出し、想定できる市場を目指して需要の引き付けをスピーディに実行することが、不安を払拭できる最も分かり易いかつ有効な方法である。
また、今となっては忘れられがちだが、日本の技術能力の形成は、戦後の海外からの技術導入の活発さと切っても切れない。
その端的な例は、徹底したリバース・エンジニアリングの励行である。とにかく「良いもの」を買って、分解して、構成ノウハウを頂戴する。そして、それ以上のものを涼しい顔して作ってしまうというしたたかさがあった。
格好など気にしない貪欲さが、相対的な世界に生きざるを得ない人類において、その優位性を創出する大きな要因になる。そこでは、高級な技術であることよりも、市場に合致するものだということの方が重要な条件になる。
このように、技術は不要ではないが、そこそこのレベルで良いのである。
次に、需要の観点から見ると、かつてモノが絶対的に不足していた時代におけるプロダクト・アウト型の押し付けや顧客の声を分析して商品化するマーケット・イン型があった。
プロダクト・アウトは既にその役割を終えてしまったし、マーケット・インについても、どうも企業は苦戦している。その原因は、消費者自身でさえも本当に欲しいものや必要なものが分からなくなっているところにある。こうした状況では、相当注意深く観察分析しないと、当然ながら顧客の声のひとつ一つに右往左往してしまうことになる。
市場の意向を聴くのは、事業活動の基本だが、それは市場に迎合することとはまったく異なる。見渡して見ると、その目的や趣旨を見失い、戦々恐々と顧客の顔色をうかがっている企業の何と多いことか。
今後は、むしろ顧客との対話を通じ、プロとしての洞察力をもって、まだニーズまで顕在化していない顧客の潜在的なウォンツを実現する活動が重要だ。顧客に対するそんな新しいアプローチこそが、デマンドをプル(需要を喚起)することになろう。
つまり、中小企業のイノベーションは、技術や需要の検証よりも、企業の主体性が一番なのである。

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