第69回 ドラッカーを読む 20完
(2002年10月11日)
規模のマネジメントB
不適切な規模について、ドラッカーは「規模の誤りは、組織にとって体力を消耗させる業病である。ありふれた病気でもある。治療は可能だが、簡単でもなければ楽でもない。規模が不適切になる原因はいろいろある。なぜ不適切かは不明でも、不適切なことを知るための診断は容易である。兆候ははっきりしている。常に同じである。不適切な規模の組織には、肥大化した分野、活動、機能が必ずある。著しく努力を必要とし多額の費用も必要としながら、成果をあげられない分野がある。他の分野でいかに利益をあげても、その肥大化した分野がそれ以上を吸い取る」と述べ、その対応には三つの戦略があると言う。「第一の戦略は、事業の性格を変えることである。しかし、実りは大きいが実行の困難なものである。まずは、事業の性格を変え何らかの特徴を身につけることだが、これは危険な戦略でもある。失敗する危険だけでなく、成功しても何も変わらない危険がある。検討するうえで必要なことは、成功の見込みはどれくらいかを問い、成功は答えになるか、事態を悪化させるだけか、真に永続的な特徴を与えてくれるかを問うことである。第二の戦略は、それほど危険ではない。合併と買収である。合併と買収は量を狙ってはならない。不適切な基盤の上に量を加えることは、さらに問題を求めることでしかない。ただし原因を知り適切な組合せを実現するならば、問題の解決は急速かつ完璧となる第三の戦略は、売却、切り捨て、縮小である。マネジメントにとっては好ましくない戦略である。普通は検討さえしない戦略である。しかし、これはあらゆる点でもっとも成功しやすい戦略である。可能なときには、常に採用すべき戦略である。リーダー的な地位という強固で安定した基盤から多くの分野へ進出した末に規模の不適切さに悩んでいるのであれば、この戦略を採用すべきである。規模の大きさは、成功や成果の指標ではない。マネジメントの能力の指標でもない。大きさではなく適切さが、それらの指標である」と続ける。このところ続出する大手企業の不祥事を見るにつけ、ドラッカーの次の指摘に納得させられる。「組織には、それ以上大きくなると成果をあげる能力が低下するという最適規模がある。企業のなかには、すでにその最適規模を超えているものがある。最適規模は、最大規模よりもかなり下にある。そのような企業は自らを分割すべきである。」さらに、地域社会との関係については、「規模についての最大の問題は組織の内部にあるのではない。マネジメントの限界にあるのでもない。最大の問題は、地域社会に比較して大きすぎることにある。地域社会との関係において行動の自由が制約されるために、事実上あるいはマネジメント上必要な意思決定が行えなくなったときには、規模が大きすぎると見るべきである。規模そのものは、それほど大きくないかもしれない。問題は相対的な大きさである」とし、これは社会的責任ではなく、あくまでも事業責任であるとする。終わりに、「規模の不適切さは、トップマネジメントが直面するもっとも困難な問題である。自然に解決される問題ではない。勇気、真摯さ、熟慮、行動を必要とする」と述べているが、これは、規模に対するトップマネジメントが取るべき姿勢であると同時に、経営すべてへのトップの関り方を示すものでもある。
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