Sekiyan's Notebook セキやんのe講義 経営

セキやんのe講義 −経営の巻−


第46回 プロジェクト方式のすすめ 6

第47回 プロジェクト方式のすすめ 7

第48回 プロジェクト方式のすすめ 8

第49回 プロジェクト方式のすすめ 9

第50回 ドラッカーを読む 1

第46回 プロジェクト方式のすすめ 6 (2001年12月11日)

計画のポイント(中)
引き続いてプロジェクトの第二段階「計画」の七つの手順の中盤から後半となる。
第四ステップは、「スケジュールの作成」である。一般に工場や建設現場で用いられているように、ヨコ軸に時間タテ軸に作業をとった表を使って、作業着手から完了までの所要時間をヨコ棒で表示するが、このグラフは考案者の米国人ヘンリー・ガントにちなんで、ガント・チャートと呼ばれる。
ガント・チャートの特徴として、すべての作業が一覧で時系列に認識できる、フロート(余裕時間)を見れば裁量の余地がわかる、進捗状況は一目で分かりクリティカル・パスで進捗管理できるなどがあり、プロジェクトの全体と部分を把握するのには大きな武器となる。
また、プロジェクトに節目をつけるには、マイルストーン(里程標)という期日を設定し、そこをチェックして行くことも有効だ。
参考までに、所要時間と作業の前後関係を明確にする手法としてPERT(パート)というものがあり、標準的なスケジュール管理手法の一つとされている。これは、マルと矢印の二つの基本記号を利用して、単位作業をネットワーク的につないでいくことで、作業の前後関係(先行・遅行)が表わせ、クリティカル・パスを明らかにするので、納期短縮の検討に威力を発揮する。
第五ステップは、メンバーの「負荷をならす」ことだが、そのために各メンバーの担当と予想される負荷をガント・チャートに書き込み、期間ごとのメンバー負荷状況を把握することが必要となる。
そして、なるべくデコボコをなくすように、各メンバーが限りなく常時百%前後の負荷になるように調整する。ここでは、余裕時間の活用、メンバーや担当の交換、前後状態の組み替え、投入資源の追加、スコープの削減などの方法があるが、いずれも関係者の同意が必要である。
第六ステップは、「予算を作る」こと、すなわち投入資源のカネを決めることである。プロジェクトの実行にあたって、適正な予算を組み、期間中の推移を見ながら、その範囲で終了させるように管理しなければならない。
手順としては、人件費・設備費・材料費・管理費・外注費などの経費項目を決め、それぞれの科目ごとに詳細費用を算出する。これには、過去のプロジェクト実績をもとにチームメンバーの経験から見積る方法、作業分割図の個別予測から積み上げる方法、類似プロジェクトを参考に大雑把な総体金額から見積る方法、とおおむね三つのやり方がある。
第七ステップは、この段階最後の「リスクへの備え」である。プロジェクトを開始した時点で、リスク要因についてあらかじめ検討し準備しておくことは、対策が後手にまわることを防ぐことにもつながり、プロジェクトの成否に関わる重要なポイントである。
ここでは、プロジェクトの三要素(時間・資源・スコープ品質)に焦点をあて、そのうちでも影響が大きいリスクについて対策を立てるが、その際は予防対策、発生時対策、対策を発動する引き金(トリガー・ポイント)の三点を盛り込むことになる。

第47回 プロジェクト方式のすすめ 7 (2002年1月1日)

計画のポイント(下)
前回までにプロジェクトの第二段階「計画」の七ステップについての解説を一通り終了したので、今回は計画段階をまとめる上での留意点を述べる。
まずは、プロジェクトの計画をまとめるための会議について見て行こう。
会議前の段取りとして、会議の開催を決めたプロジェクト・マネージャーは、参加メンバーに会議目的と議題を連絡し、事前に資料を配布する。資料には、プロジェクトの目標と作業分割図の大項目程度を明示し、各メンバーに事前の課題を与える。もちろん会議メンバーはそれに目を通し、各自の考えを整理して参加する。
そして、計画立案会議の議題は、プロジェクト目標の確認と具体的な計画の検討に絞ることである。
目標の確認では、前もって準備したプロジェクト目標についての再検討と合意が手始めとなる。そして、スコープに含むものと含まないものを十分話し合い合意する。ここで当然ながら、プロジェクトの前提条件、制約条件、リスク要因、変更管理の決め事などについて確認し、過度の期待感を払拭し、目標を明確にすることになる。
また、プロジェクトを具体的に検討するには、作業分割図のレベル1の作業を取り上げ、順次低位のレベルへ進む訳だが、最下位レベルの作業に至るまで、それぞれの責任者と成果物を決めていく。
さらに、前回まで解説したように、役割分担→クリティカル・パスの抽出→スケジュールの作成→負荷をならす→予算を作る→リスクに備える、と計画立案会議を重ねて、計画を積み上げる。
計画の策定と併せて、見落としや漏れの防止のために、チェックリストを用いて確認をする。
そして承認が必要な場合には、適切な手順を踏んで承認を得ることになる。この際、承認者の検討に要する時間を十分に確保しなければならない。
承認がなされれば、それを基準計画としてプロジェクトを実行に移すことになるが、プロジェクトの進行につれて、基準計画への変更の必要性が出てくるので、プロジェクトマネージャーは、その都度基準計画に修正を加え、更新していく。したがって、基準計画は固定したものではなく、プロジェクトマネジメントの手段として弾力的に使用する。ただし、基準計画を更新した場合には、関係者への連絡は不可欠であり、文書で保存する必要もある。
以上のように計画を策定し、プロジェクト目標が明確になったら、プロジェクトファイルへの保存は必須であり、その内容は次の通りである。
プロジェクトの目標、変更管理の手順、基本ルール、作業記述書、見積所要時間、ガント・チャートなどによるスケジュール、要員負荷予測、予算、リスク対策、報告計画、現状報告書の様式、スコープ変更台帳、スコープ変更依頼書、そしてプロジェクト終了後にプロジェクトの要約を加えることになる。
ここまでで「計画」段階を終え、いよいよ「実行と管理」の段階に移る。次回は、その進捗の管理についての解説を行なうこととし、その次の回は、「まとめ」段階である事後の見直しについて取り上げる。

第48回 プロジェクト方式のすすめ 8 (2002年1月11日)

実行と管理
プロジェクトの実行段階におけるプロジェクト・マネージャーの役割は大きく二つあり、プロジェクトを計画通りに進めることと、プロジェクトのスコープ(範囲・定義)変更を管理することである。
一つ目の、プロジェクトの進捗管理については、まず管理項目を選び、その項目についてそれぞれ管理範囲(例、中心値±○%など)を決める。そして、実績データの収集方法や頻度などを決めていく。
採集した実際のデータと計画値を比較し、差異を確認する。差異が許容範囲に収まっている場合プロジェクトは予定通りに継続されるが、許容範囲を超す差異が認められた場合には、その影響の分析・検討が必要になる。
その差異が発生した原因を徹底的に究明し、さらにプロジェクトにもたらす影響を評価する。影響が小さい場合には、プロジェクトは計画通りに進められるが、大きな影響がある場合には是正対策を講じることになる。
是正対策を講じるとは、「真の原因」を除去することであり、表面的な手を打つことではない。真の原因に行き着く簡便法として、「なぜ」を三回重ねる方法がある。
「なぜ、作業完了が三日遅れたのか?」「納入業者が材料の納品を三日遅らせた」→「なぜ、納入業者が三日遅らせたのか?」「納入業者が当社との納期約束を重要視していない」→「なぜ、納期約束を重要視していないのか?」「価格交渉で買い叩いたので、納入業者がいい加減な納期回答をしていた」→この業者の不満を放置すると再度の不具合が発生する可能性大であるので、マネージャーは納入業者との話し合いを行い双方が納得できる解決策を探ることになる。
そして、プロジェクトの計画の修正は、是正対策をもとに、スケジュール、要員計画、予算等に加えられ、関係者に計画の修正点を報告・周知する。
二つ目はスコープの変更についてだ。プロジェクトのスコープに何を含み、何を含まないかは最初に決めたことだが、プロジェクトの進捗とともに変更が必要になる場合がある。それは、依頼者からの場合もあり、外部環境の変化や法律制度の改訂、要員の交替や誤りの訂正など、実にさまざまなものに起因する。
プロジェクト・マネージャーは、そのたびに変更の依頼を記録し、評価し、採否の判断をし、関係者に連絡をする。その流れは、以下の通りである。
変更依頼を文書にまとめる。これは変更を希望する者かプロジェクト・マネージャーが行なう。
依頼を台帳に記入する。順番に整理し、プロジェクト・ファイルに保管する。
変更理由と効果を評価する。関係者を交えて検討し、変更しない決定をしたら、依頼者に通知する。この時、依頼者が再検討を申請できるようにする。
プロジェクトへの影響を評価する。変更が適切だと判断したら、その影響をスケジュール、予算、要員、品質の面から検討する。
採用、不採用、延期を決定する。今までの検討と分析から、採否または延期を決める。不採用と延期の場合は、依頼者に知らせる。
計画に盛り込み、関係者に通知する。変更依頼の採用を決めたら、計画を修正し、関係者に通知する。

第49回 プロジェクト方式のすすめ 9(最終回) (2002年2月1日)

事後の見直し
プロジェクトの最終成果物を依頼者に引き渡すだけで、プロジェクトがすべて完了したことにはならない。プロジェクト・マネジメントの最終ステップでは、プロジェクトを振り返り、その評価を行い、今後のプロジェクトへの教訓として最終報告を文書で記録に残すことが不可欠である。
このことを事後の見直しと言い、一つは最終の実績データを集めること、二つは見直し会議でレビューすること、三つは文書化し記録に残すことの大きく三つに分けられる。
まず最終データの収集に当たっては、目標設定から計画そして実行の各段階についてプロジェクトの全過程を振り返り、チーム全員で可能な限り多くのデータを集めることである。当然ながら、本欄で繰り返し述べてきた通りプロジェクトの主要な要素である「スケジュール」「予算」「品質」の各方面からのデータ収集が中心となる。
次に、事後の見直し会議については、メンバーがプロジェクトから得た教訓や経験、スキルなどを持ち寄り、プロジェクトを冷静に評価するという姿勢が大切である、したがって、この会議の際には非難の応酬は禁物である。
会議での話し合いのポイントを以下に整理する。
スコープについては、成果物が依頼者の要求を満たしたか否か、追加作業の発生の有無と理由、スコープの変更の有無と得た教訓、スコープ作成での発見と今後への活用について、などである。
スケジュールについては、計画との差異の確認と理由、スケジュール管理における教訓と今後への活用。
予算については、過不足や変更の確認と理由、予算管理上での教訓と今後の活用。
進捗管理についての経験と活用、是正対策に関する教訓と活用。
チームとしては、要員配置上の教訓と活用法、コミュニケーションについての課題や教訓、役割分担での問題点と成功例、各メンバーのスキルの適否と見極め方、役割配分の徹底度と推進の妥当性、今後の活用法。
メンバー以外との関係については、依頼者や取引先・外注先あるいは社内の他部門との連携や関係の維持改善についての教訓。
以上のように、各々の場面でプロジェクトから得た教訓と今後へ活用できる部分を建設的に話し合うことが重要である。
そして、最後にこの見直し会議で出された内容を文書にまとめて記録として保管し、以後のプロジェクトでの計画立案に活用することになる。
以上のような事後の見直しを行うとともに、プロジェクトマネージャーにはもう一つの大事な任務がある。それは、プロジェクトに関わったメンバーの異動と資材の整理や施設の明け渡しである。
また、時には立ち上がり後のユーザー教育などにも対応が必要とされる場合も生じる。
本シリーズでは、九回にわたって「プロジェクト」の進め方を「マネジメント」の視点から論じた。シリーズ冒頭で述べた通り、NHKのプロジェクトXが好評を博しているのは、主人公達の情熱にだけ拠るのではない。シリーズを通じて、プロジェクト方式の持つ「分かりやすさ」が、目的達成の可否に大きく関与していることをご理解いただき、貴社の経営に活用する端緒になれば幸いである。

第50回 ドラッカーを読む 1 (2002年2月11日)

職場コミュニティを活かす
前回まで9回にわたって「プロジェクトの進め方」について述べてきたが、今後しばらくは優れたビジネス思想家であるP・F・ドラッカーの理論を我が同志向けに解説したい。
中小企業には、経営が関わるべきことと従業員に任せるべきことの区別がつかない実態がある。
例えば、ジュース類の自動販売機の管理を取り上げてみよう。この自動販売機に関する従業員の「満足度」は従業員それぞれの嗜好によるものであり、全ての満足を得ることは困難である。つまり、銘柄や価格に対して、こちらを立てればあちらが立たず、の図式が付き物である。
つまり、職場に設置された「自動販売機」は、ハーヅバーグ理論の「衛生要因」であり、充足されないと不満が出るが、その改善がなされても積極的にやる気を起こさせる働きはない。
これに関連して、ドラッカーは著書で次のように述べている。
「工場や事務所には職場のコミュニティがある。働く者に仕事の成果を上げさせるには、この職場コミュニティに実質的な責任を与える必要がある。
マネジメントが職場コミュニティに関わる問題について意思決定を行なうことは、職場コミュニティにとっては重要であっても、マネジメントにとっては重要でない問題をマネジメントが背負い込むことを意味する。従業員食堂、休暇の調整、レクリエーション活動などの問題がある。ほとんどの企業では、マネジメントがこれらの問題を処理している。金をかけ、能率を悪くし、摩擦と不満の種を作り出している。意思決定は適切ではなく、運営はうまく行かない。それは、これらの仕事が、マネジメントにとって重要ではなく、大事に扱うに値していないからである。
だがこれらの活動は、職場コミュニティとそのメンバーにとっては、重要な生活上の問題である。運営がうまく行かなければ士気が低下する。しかも、その運営が上からのものである限り、いかにうまく行っても士気は向上しない。これらの活動に関わる責任は、職場コミュニティに任せるべきである。
そのうえこれらの活動は、リーダーシップを発揮し、責任を持ち、認められ、学んでいく良い機会である。特にリーダーシップを発揮する機会が職場コミュニティに存在しない時、能力、エネルギー、野心が、マネジメントや職場コミュニティに対立する形で発揮される。当然、否定的、破壊的、扇動的な形をとる。
職場コミュニティの自治は民主的でなくて良い。民主的であってはならないかもしれない。権限や任務は、年功によって決定して良い。重要なことは、職場コミュニティの問題は自治でなければならないということである。意思決定の責任は、その意思決定の影響に直接関わるところに与えなければならない。」
この指摘は、筆者の実務体験を明確によみがえらせ、心から納得させる。
例えば、冒頭の「自動販売機」対策として、その設置から運営にいたるまで、従業員の親睦会に任せたところ、それまでの不満が一気に解決した例もあった。その際、水道光熱費などは実費補助し、益金を委任した会に与えたことも成功を後押しした。
次回からも、経営の両輪である「理論的確信」と「実践的確信」の両面を、ドラッカー理論と中小企業の現場から論じていく。

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