Sekiyan's Notebook セキやんのe講義 経営

セキやんのe講義 −経営の巻−


第66回 ドラッカーを読む 17 : トップマネジメントの役割

第67回 ドラッカーを読む 18 : 規模のマネジメント@

第68回 ドラッカーを読む 19 : 規模のマネジメントA

第66回 ドラッカーを読む 17 (2002年9月11日)

トップマネジメントの役割
トップマネジメントに課せられる役割を果たすには、少なくても次の四種類の性格が必要であるとドラッカーはいう。
それは、「考える人」「行動する人」「人間的な人」「表に立つ人」であるが、これら四つの性格を合わせ持つ者はほとんどいない。
そして、「トップマネジメントにはそれぞれ流儀があり、それぞれ自分なりに役割を決めればよいとの考え方はナンセンスである。誰にも流儀はある。それはそれでよい。しかし、トップマネジメントとは何であり、何でなければならないかは客観的に規定される。引力の法則が、その朝物理学者が食べたものと関係がないように、トップマネジメントの役割はその座にある者の流儀とは関係ない。
トップマネジメントの役割が、課題としては常に存在していながら仕事としては常に存在しているわけではないという事実と、トップマネジメントの役割が多様な能力と性格を要求しているという事実とが、トップマネジメントの役割のすべてを複数の人間に割り当てることを必須にする。」と述べている。
四つの性格を含む多元的な役割について続ける。
@事業の目的「われわれの事業は何か。何であるべきか」を考える役割。この役割から、目標の設定、戦略計画の作成、明日のための意思決定という役割が派生する。
A基準を設定する役割、すなわち組織全体の規範を定める役割がある。目的と実績との違いに取り組まなければならない。主たる活動分野において、ビジョンと価値基準を設定しなければならない。
B組織をつくりあげ、それを維持する役割がある。明日のための人材、特に明日のトップマネジメントを育成し、組織の精神をつくりあげなければならない。トップマネジメントの行動、価値観、信条は、組織にとっての基準となり、組織全体の精神を決める。加えて、組織構造を設計しなければならない。
Cトップの座にある者だけの仕事として渉外の役割がある。顧客、取引先、金融機関、労働組合、行政機関との関係である。それらの関係から、環境問題、社会的責任、雇用、立法に対する姿勢についての決定や行動が影響を受ける。
D行事や夕食会への出席など数限りない儀礼的な役割がある。むしろ大企業よりも、地場の中小企業のトップマネジメントにとって逃れることのできない時間のかかる仕事である。
E重大な危機に際しては、自ら出動するという役割、著しく悪化した問題に取り組むという役割がある。有事には、もっとも経験があり、もっとも賢明で、もっとも傑出した者が腕をまくって出動しなければならない。法的な責任もある。放棄できない仕事である。
あらゆる組織にとって、トップマネジメントの機能は不可欠である。もちろんトップマネジメントが行う具体的な仕事は、組織によって異なる。それは個々の組織それぞれに特有である。問題は、トップマネジメントとは何かではない。「組織の成功と存続に致命的に重要な意味を持ち、かつトップマネジメントだけが行いうる仕事は何か」である。
ドラッカーのいうように、トップマネジメントの重要性と責任の重さは、大企業よりもむしろ地場の中小企業の方が大きく、かつ切実である。
中小企業だからこそ、その気になれば、きょう会った経営者のように、その決断だけで、債務超過の状態から、一気にそれを解消し希望に満ち溢れた企業に脱皮できるのだ。

第67回 ドラッカーを読む 18 (2002年9月21日)

規模のマネジメント@
これからの三回の連載で、一旦ドラッカー理論のまとめにしたい。
本欄は、中小企業者に有益であることをめざしている。世界規模の企業の盛衰に関与してきたドラッカーとは一見無縁の世界のようだが、企業経営の原則は規模に関係なく共通である。そのためには、逆説的だが規模についての検証が必要である。
ドラッカーは、規模と戦略について「規模は戦略に影響を及ぼす。逆に戦略も規模に影響を及ぼす。小さな組織は、大きな組織にはできないことができる。小さな組織は、小さいだけでなく単純である。反応が早く機敏である。資源を重点的に投入できる。もちろん大きな組織には、小さな組織にはできないことができる。組織には、それ以下では存続できないという最小規模の限界が産業別、市場別にある。逆にそれを超えると、いかにマネジメントしようとも繁栄を続けられなくなるという最大規模の限度がある」と指摘する。
では、適正な規模とはどう捕えられるべきだろうか、そのことについてドラッカーは「適切な規模を知るには、従業員数、売上高、製品、市場、技術、産業構造を見なければならない。いずれも単独では決定要因とはならない。
しかし、規模の適切さをかなり正確に示す一つの基準がある。小企業では、社長は、書類を見たり人に聞いたりしなくとも、中心的な成果に責任を持つ者が誰かわかる。つまり、中心的な人間は少数である。十二人から十五人を超えることはない。一人の人間が本当によく知ることができる人間の数が、最大限十二人から十五人である。
中企業では、社長はもはや、組織内の本当に重要な人間全員を識別し知ることはできない。そのためには三人ないし四人の人間が必要である。中企業の社長は、中心的な人間の名前を聞かれると、トップマネジメントの同僚を何人か呼び、相談して答える。中企業では、成果を左右する存在として知られている中心的な人間の数は、四十人から五十人である。
これが大企業になると、組織図や記録を調べなくては、決定的に重要な人間が誰であり、どこにおり、前に何をやり、現在何をしており、これからどのような道をたどることになりそうかはまったくわからない」という。
したがって、一人あたりのマネジメント能力すなわち人心把握キャパシティが十二人から十五人(以下、これを単位ユニットという)という前提からすると次のように整理できる。
従業員規模でいうと、小企業は社長一人でマネジメントするから単位ユニットである十五人程度まで。中企業は、二段階に分かれ、初期の段階は、中心的な三〜四人がそれぞれ単位ユニットを把握するから五十人前後。次段階として、中心的な四十人から五十人となると、それぞれが単位ユニットをマネジメントできるから、従業員総数で六百人前後となる。それ以上は大企業となる。企業の組織を考える場合には、小企業は一階建て、中企業には二階建てと三階建てがあり、大企業は四階建て以上となる。したがって、企業の成長にあわせた組織のステップアップは、このように何階建てなのかで整理すれば十分である。
中小企業では、一階建てなのに組織が三階層になったり、三階建てなのに権限委譲できずにトップが瑣末な業務に追われたり、規模で規定される何階建てなのかとそれを支えるための組織的な階層の不一致が散見されるものだ。

第68回 ドラッカーを読む 19 (2002年10月1日)

規模のマネジメントA
ドラッカーは、「多くの企業は適切な規模を知らない。規模にふさわしい戦略や構造については、さらに知らない。事実、成果と業績に関係のない分野で、費用のかかるスタッフを抱えている小企業は多い。あまり意味のない活動、製品、市場に自らの資源を投入している中企業も多い。トップマネジメントが自社を幸せな一家と錯覚している大企業も多い。
企業は自らの規模を知らなければならない。同時に、その規模が適切か不適切かを知らなければならない」という。
それは、規模に応じてマネジメントの要点が異なるからである。次にそれぞれの留意点をあげる。
小企業のマネジメントは「われわれは優れた権威たちから、小企業は巨人に飲みこまれつつあり、消滅寸前だと聞かされていた。だが、これはナンセンスだった。小企業と大企業は択一的な存在ではなく、補完的な存在だった。
小企業はマネジメントに関心を持つ必要はないとされていたが、これもまちがいだった。小企業は、大企業以上に組織的かつ体系的なマネジメントを必要とする。たしかに本社スタッフは必要ない。込み入った手続きや手法も必要ない。そのようなものを持つゆとりはない。だが、小企業は高度なマネジメントを必要とする。
小企業は戦略を必要とする。小企業は限界的な存在にされてはならない。その危険は常にある。したがって、際立った存在となるための戦略を持たなければならない。ニッチを見つけなければならない。現実には、ほとんどの小企業が戦略を持たない。機会中心でなく問題中心である。問題に追われて日を送る。だからこそ小企業の多くが成功できない。
@小企業のマネジメントに必要とされることは、「われわれの事業は何か、何であるべきか」を問い、答えることである。
Aトップマネジメントの役割を組織化することである。」と、自社のアイデンティテーを意識する重要性を指摘する。まさに、これこそが企業経営の原点である。
さらに、「中企業は多くの点で理想的な規模である。大企業と小企業双方の利点に恵まれている。誰もがお互いを知っており、容易に協力できる。チームワークは特別に努力しなくともひとりでに生まれる。誰もが、自らの仕事が何であり、期待されている貢献が何であるかを知っている。
資源は十分ある。したがって、基本的な活動を継続することも、卓越性が必要な分野で他に秀でることもできる。規模の経済を手にするだけの大きさもある。それは、マネジメントすることがもっとも容易な規模である。
卓越性が必要な分野では、あたかも大企業であるかのごとく行動できる。しかしそうでない分野では、最小限のことしか行うべきではない。中企業とは、特定の重要な分野において、リーダー的な地位にある企業である。この地位を維持することこそ、中企業にとって成功の鍵である。
要するに、中企業は持てる資源のすべてをあげて、成功の基盤となっている分野を確保することが要求される。そうでない分野では、抑制と禁欲が要求される。」と中企業のマネジメントの要点を示す。
そして大企業については、「組織構造は明快でなければならない。全員が目標、優先順位、戦略を知らなければならない。さもなければ、官僚組織に堕し、成果をあげるよりも慣例を守ることに汲々とし、手続きを生産性と取り違えるようになる。」と、その弱点を指摘する。

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