Sekiyan's Notebook セキやんのe講義 経営

セキやんのe講義 −経営の巻−


第41回 プロジェクト方式のすすめ 1

第42回 プロジェクト方式のすすめ 2

第43回 プロジェクト方式のすすめ 3

第44回 プロジェクト方式のすすめ 4

第45回 プロジェクト方式のすすめ 5

第41回 プロジェクト方式のすすめ 1 (2001年10月1日)

プロジェクトX ヒットの要因
NHKの番組であるプロジェクトXの評価が高い。ていねいな取材、力強い主題歌、淡々としてでしゃばらないナレーション、そして何よりも人生をかけてプロジェクトに挑むメンバー達。見ているものを思わず引き込み、感動を与える。
閉塞感が蔓延し、不透明感に覆われている今だから尚更感じるところがあるのだろう。しかし、現役の企業人として、それを懐古趣味に埋没させてはならない。将来につなげるために、私達は「今」の使命をしっかり果たさなければならない。
丁度今の時代がそうであるように、情報が錯綜し状況が混乱している時こそ、目標を明確にすることが重要になる。
こうした状況下、1997年に制定されたISO10006は、プロジェクトの管理方法が世界標準として認知されたことを意味し、日本でも翌98年にJISQ10006「プロジェクト・マネジメントにおける品質の指針」が制定された。
今回からのシリーズでは、このプロジェクト方式についての解説を通じ、企業経営の効果的な進め方への活用を研究してみたい。
端的にプロジェクト方式の長所は、今すべての企業が苦しんでいる問題を比較的容易にクリアできるところにある。苦しんでいる問題は大きく2つある。第1に、いずれの企業でも硬直的な組織の問題がある。第2に目標と成果の検証が不明確であるという課題を抱えている。
ところが、プロジェクト方式で対応すれば、組織のしがらみを排し、成果目標が明確になってしまうのである。では、早速研究に入ろう。
まずはその歴史をみると、近代的なプロジェクト・マネジメントの歴史は、1042年に発足したアメリカの「マンハッタン・プロジェクト」を発祥とする。米国陸軍が原子爆弾開発のために、プロジェクト方式をはじめて採用し、20億ドル以上の予算と60万人もの人的資源が投入された。
さらに60年代に入り、NASA(米国航空宇宙局)でも人類初の月面着陸を目指した「アポロ計画」で採用された。その背景には、旧ソ連との先陣争いで厳しい納期に追われていたことがある。アポロ計画は、通信技術、ロケット技術はじめ、生命工学、宇宙食開発など多様な専門技術の統合を必要としており、どれか1つでも間に合わないと、月面着陸という目的が達成できなかったのである。
そこで、異なる専門領域の活動を目的達成に向けて結集するプロジェクト・マネジメントが採られ、前人未到の快挙を成し遂げたのである。
その後92年に就任したクリントン大統領も、膨大な赤字を抱える国家財政の再建にプロジェクトを活用するなど、主にアメリカのビッグ・プロジェクトで活用されてきたが、前述の通り97年にISOで国際標準規格に制定されたのを契機に、日本でもこのところ関心が高まってきた。
旧建設省は、99年6月に「公共事業へのプロジェクト・マネジメント手法導入に関するビジョン」と題した資料を発表し、2004年までに、手法の標準化や業務プロセスの検討することなど明記した。

第42回 プロジェクト方式のすすめ 2 (2001年10月11日)

プロジェクト方式とは
そもそもプロジェクトとはどのように定義されるのかといえば、「(通常業務とは異なる)特定の目標を達成するために、期間を限定して行なう一連の作業」である。そしてそれは、「時間、資源(ヒト・モノ・カネ)、スコープ・品質、の三要素を管理し、バランスを取りながら行なわれるもの」ということになる。
スコープというなじみのない用語が出てきた。直訳すれば、領域とか範囲とかということになるが、品質とワンセットで用いられていることからも、ここは「量」と解釈し、量と質の両方の要素、すなわち設定される目標値というとらえ方が妥当であろう。
したがって、プロジェクトマネジメントについては、「一連の技法、プロセス、システムを駆使して、プロジェクトを効果的に計画、実行、管理すること=目標達成のために資源をやりくりすること」となる。
またプロジェクトは、おおむね四段階に分けられる。第一の段階は、発足と目標の明確化である。プロジェクトの基礎をしっかり固めるには、この段階での明確な目標設定が絶対条件となる。第二段階は、計画策定である。目標を達成するためには、ここで具体的計画の立案が欠かせない。第三は、実行と管理の段階に進む。ここでは、プロジェクトマネージャーの力量がシビアに問われることになる。第四として、最後のまとめをしなければならない。事後を見直しと最終成果物を検証し今後のプロジェクトへ役立てるようにすることで、当該プロジェクトがさらに生きることになる。
また、オールジャパン不振の原因は、護送船団方式や官僚主義に象徴される組織体質の部分に大きな弊害があると指摘されているが、大小問わずそれを根底から再編するのは相当な時間が必要で、何よりもトップの不退転の決意をいかに末端まで浸透させていくかという難関が待ち受けている。
しかし、今こうしている間にも業務は遂行され、企業は経済活動を行なっている。したがって、トップの決断を待てないのであれば、次善の策ではあるが、プロジェクト方式を活用して、業務遂行というルーチンワークに権限委譲のしくみを作り、特定課題に集中させることでメンバーに最大の動機づけをなし、そこから活路を見出すことも大いに検討に値する。
結果的にプロジェクト方式で成果をあげた事例が、NHKのプロジェクトXに取り上げられ、視聴者である企業人の共感を得ていることから分かるように、こうした一つ一つの成果を積み上げることで組織全体の体質改善につなげるという帰納法的なアプローチは、社員にとって大変理解し易いものだ。
また、経営サイドからしても、先に挙げたプロジェクトの三要素から分かる通り、第一に期限が決められ、第二に投入する経営資源もガラス張りで、第三に目標が明確であるから、失敗した時に失うものがすべて想定できるし、目標達成時の成果まで予想できてしまうので、当初から抱えるリスクと成功した時のプロフィットの予測が容易になり、明確な経営の判断材料になる。
したがって、プロジェクト方式を活用すれば、停滞した組織でも抜本的な決断が可能になるのである。

第43回 プロジェクト方式のすすめ 3 (2001年10月21日)

効果が見込める理由
今回は、プロジェクト方式の採用によって、なぜ効果が期待できるかを少し掘り下げてみよう。
高度成長時代と現在のデフレ時代を比較して企業環境で最も変化があったのは、繰り返し指摘される通り、かつては「何(目的)」は他から与えられ「どのように(方法)」を工夫していくだけで良かったものが、今は「何」自体を主体的に求めることが企業に迫られているという点だ。
つまり、企業が事業を推進する場合、到達目標自体を主体的に設定することが必要であり、おのずから求めるスコープ(範囲・領域)・品質を定め、期限や予算の要件も確定することが出発点となる。
そして、プロジェクトに関わる間は、ルーチンワークのタテ組織から解放され、メンバーの専門性や得意分野を存分に発揮する環境が整えられる。逆に、この条件が確保されなければ、それはプロジェクトチームといえない。組織的には、あくまでも治外法権であることがプロジェクトの前提となる。
つまり、階層組織は長期的な組織で部門の長が必ずしも新しい業務に適しているとは限らないが、プロジェクトチームなら、組織にこだわらない最適のマネージャーを選定できる。従って、しがらみにとらわれずに新しい価値観でマネジメントできる。いわば「(過去と一線を画した)新しい価値観でのマネジメント」が、効果を見込める第1の理由だ。
第2は、「多くの専門家の力を結集」できることである。新しい社会の要求を階層組織という縦社会だけで処理することは困難で、縦系列では必要な人材を集めるのに限界がある。プロジェクト方式を採ると、社内の各層から広く的確な人材を集めることができ、外部の人材の登用や他組織との連携も容易になる。
第3の理由として、プロジェクト組織は特定のテーマに特化した機能体組織の典型であり、機能体組織は、必要な時に、必要な人材を、必要なだけ取り込むことによって先鋭化する。また人にはそれぞれ専門性があり興味を示す対象が異なる。そうした点での「人材の効率的活用」につながることにもなる。
また、他社と連携する場合には、これがISO10006で制定された「世界的に共通した手法」であり客先や関係者に認知され易いということも、第4の理由に挙げられよう。従って、地域や国境にこだわることなく共同や連携の道が開かれる。
第5の理由として、やはり手法の共通化により、官民の領域を越えた共同プロジェクト(例えば、話題の民間活力を利用したPFIへの導入など)への活用も可能になり、「個別プロジェクトごとの合意形成の具体化」が促進される。
企業の組織は、元来外的な成果を追求する「機能体」であるが、時間とともに組織そのものという内的な興味を優先するよう変質していく。プロジェクトという手法を取ることによって、それがシェルターの役割を果たし、変質した組織の弊害を排除する。その結果、個別のプロジェクトが自律的に動き、そこにはメンバーの掛け値のないエネルギーの集積がなされ、率直に成果として表出することになる。

第44回 プロジェクト方式のすすめ 4 (2001年11月1日)

目標明確化のポイント
プロジェクトは、四段階に分けられると前々号で述べたが、「発足と目標の明確化」がその第一段階であり、プロジェクトの成果を得るためには、この段階で基礎をしっかり固め、明確に目標を設定することが最も重要である。
繰り返し述べる通り、プロジェクトは、「時間」、「資源(ヒト・モノ・カネ)」、「スコープ・品質」の三要素で構成されるが、目標明確化に当たっての手順は次の通りである。
第一に、真のニーズを把握し、それに合致した最終成果物を決める必要がある。最終成果物とは、プロジェクトが完了した時に得られるものであり、例えば、不良品の排除だったり、新製品の市場投入であったり、新しい生産方式の導入であったりする。
第二に、得られるであろう成果物の評価の物差しを決めることになる。それは、完了・成否の判断基準、仕様(スペック)、受益者への便益、実施にあたっての絶対条件・相対条件、品質の基準などである。
第三に、プロジェクトの三要素の優先順位を決める。プロジェクトを進める上では、すべての要素が潤沢に確保できるとは限らないので、最優先する必達目標、次に優先する努力目標、容認するもの、と三つの要素を順位づけすることになる。例えば、期限通り終了しないと意味がないプロジェクトの場合は、時間が必達目標となり、スコープ・品質はできるだけ目標に近づける努力目標になり、そのためには資源がオーバーすることは容認する、というように、各々の要素に序列をつけることで目標が一段と明確になるのである。
第四に、プロジェクト目標の文書化である。おおむね三〇〇字程度で簡潔にまとめる。そこには、誰がプロジェクトの実施を望むのか、何をプロジェクトの最終成果物とするのか、なぜプロジェクトを実施するのか(どんな課題を解決したいのか)、いつまでに完了するのか、いくらの予算が使えるのか、といったことを盛り込む。
この文章化によって、プロジェクト依頼者、メンバー、関係者の間に共通ビジョンが確立し、目指す方向が明らかになるので、その策定にあたっては、次の点に留意する必要がある。それは、具体的で明確な言葉を使うこと、制約条件は絶対的なもののみとすること、制約条件を満たさない時の不具合を把握していること、最終成果物が明確であること、成否の判断基準を数値化していること、などである。
たとえば、「生産性アップのため、当初の生産拠点に設備を導入する」という目標を例に問題点を拾うと、生産性を測定する尺度は?現状の基準値は?生産拠点とはどこか?設備はどの種類で何セットか?などもっと具体的な表現に磨き上げる必要があることがわかる。
さらに第五として、管理変更の手順を決めることも忘れてはならない。プロジェクトは生き物なので、変更の際にどのような手順で検討・評価し、採否を決定するか事前の共通認識は欠かせない。
そして第六に、メンバーの役割や権限、情報交換の頻度など基本ルールを確認して、これらをファイルに集約すれば「目標明確化」段階の終了となる。

第45回 プロジェクト方式のすすめ 5 (2001年11月11日)

計画のポイント(上)
今回は、プロジェクトの第二段階となる「計画」について述べる。それは、以下の七つの手順に分解することができる。
第一ステップは、「作業の分割」である。プロジェクトが複雑化すればするほど、作業を細かく分割し、一つひとつの作業に取り組み易くする必要がある。作業分割図(WBSワーク・ブレークダウン・ストラクチャー)を用いるやり方は、これを進める上で代表的な方法である。
WBSとは、プロジェクトを完了するために必要なすべての作業を重層的系統図に書き出し、個々の作業量を把握することで、具体的な実行計画の根拠とする技法である。
この際に作業群ごとの分割レベルにバラ付きが出るのは気にしなくて良いが、最下位の作業は「△△を○○する」と表わせるところまで分割し、責任者を必ず一人決める。ここでの「△△」は成果物であり、「○○する」は作業完了の判断基準となる。
さらに、WBSを一覧表にまとめ、次に個々の作業についての「作業記述書」を作る。これには、作業の内容説明、成果物、完了の判断基準、前提条件を詳細に書き込む。ここまでの作業でプロジェクトの「作業分割」が明らかになる。
引き続き第二ステップは、第一ステップで明らかになった個々の作業を、誰がいつまでに行うかを決める「役割分担と所要時間の見積」になる。
まずは所属部門の折衝を行ないながら参加メンバーを決める。そしてメンバーの役割と責任をすり合わせる。その結果を「役割分担表」にまとめる。複数の要員が必要な場合は、責任者一人とその他の支援者と位置付ける。このステップでは、単なる口約束(プロミス)ではなく、すべての関係者からの確約(コミットメント)を取ることがとても重要である。
次にそれぞれの作業に要する時間を見積るが、過去の類似プロジェクトなども参考になる。また、投入資源の量によって変わる可変時間作業なのか、投入資源の量に影響されない固定時間作業であるのかも見極める。これは、次の所要時間を見積る際にそれが短縮できるかどうかで扱いが異なるからである。
例えば、Aという作業の作業量を九時間と見積った場合、固定時間作業であればAの所要時間もそのまま九時間だが、可変作業時間なら要員の数を三人に増すと、Aの所要時間は三時間近くにまで短縮される。こうした積み重ねで、役割分担と所要時間が決まっていく。
第三ステップは、今まで抽出した作業の「前後関係を整理して、プロジェクトの流れを明らかに」する。作業分割で最下位レベルの作業を最初から順序に並べる右脳アプローチか、作業分割図に直前先行作業を書き込んで論理的にネットワークを整理していく左脳アプローチか、いずれかの方法で進める。
そして、プロジェクトの開始から終了までに最も長い時間を要する経路(クリティカル・パス)をみつけ、それを有効に使う方法を考える。それにより、プロジェクト全体の所要時間、個々の作業が全体へ及ぼす影響、期限を守るためのポイント、日程的な余裕、などがクリアになる。

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