「経営の腑」第21号<通算 第336号>(2011年4月1日)
限界的企業の生き残る道 一倉定著「社長の販売学」(第7章 市場戦略を持て)より引用
弱者――小規模企業、限界的企業、限界的商品にとっては大手と戦って勝つことを可能にする唯一の法則はランチェスター戦略であるといっても決して過言ではない。これを知らない多くの限界的企業が、大市場こそ生きる道とばかりに、ここで戦略を展開して無残な敗北を喫している。また、いたずらにテリトリー拡大主義をとってムダな努力を繰り返している。
誰も教えてくれないから、自分だけの考えでやるより他にないのだが、このような過失に気がつかない明確な原因がある。それは何であろうか。それを考えてみよう。
命のやりとりをする本物の戦闘ならば、我軍の損害が戦死何名、負傷者何名というように目に見えるし、数量的に計算することができる。それに反して、市場戦では、我軍の損害はいくらだ、ということは分からない。それどころか、現実には若干の売上がある。その売上を“成果”として把えてしまう、という誤りを犯してしまう。
売上がいくらあろうと占有率が下がれば戦いは負けなのだ。しかも敵の売上が分からないために、占有率が上がったか下がったか分からない。また、占有率の認識それ自体さえない会社が多いのである。これが、少しでも売上があるとそれを成果と思い込む理由である。そして、もっと売上を上げるには、戦場を拡大しなければならないと思い違いするのである。
これが社長を戦略地域拡大主義に走らせ、勢力を分散させて市場戦に敗北を喫することになるのである。
売上の伸び率が、他社よりも少なければそれは敗北しているのだ、という認識こそ大切である。こういう場合には、戦場を縮小しなければならないのである。
これが市場戦に対する正しい認識である。
市場原理というものは、個々の企業の努力で変えられるものではない。だから、市場原理に基づいて、敵に勝る戦力を投入できる戦場に限定して敵と戦わなければならないのである。
この場合は、単なる営業員の人数ではなく、特定の作戦区域とか、特定得意先について敵に勝る訪問回数を実現することこそ「敵に勝る戦力」であるということを忘れてはならない。訪問回数こそ、敵に射かける弾丸の数なのである。これこそ、必勝の基本条件なのだ。
だから、敵が大きければ大きいほど、作戦地域を縮小して、その中で敵に勝る訪問回数を特定の得意先に対して実現できるようにすることこそ、社長の役割である。
このような、各個撃破こそ、小が大を破ることを可能にするのだ、ということをゆめゆめ忘れてはならないのである。
セキやんコメント: ランチェスターの第一(一騎打ちの)法則からは力の強いもの(占有率の高い会社)が勝つこと、第二(集中効果の)法則からは成果は兵力の二乗比となること、が導き出される。つまり、どんな企業でも、自社の占有率が高い所に絞り込んで経営資源を集中投入すれば、活路が見出せるということなのだ。
「経営の腑」第22号<通算 第337号>(2011年4月15日)
伊勢湾台風と佐伯勇 一倉定著「新・社長の姿勢」(社長学シリーズ第9巻)より引用
伊勢湾台風の時である。近鉄名古屋線は木曽川の堤防決壊によって名古屋−桑名間の鉄塔が水浸しとなり、不通となっていた。当時の社長佐伯勇はパリに滞在中であった。その事を、本社からの報告で知ったが、やがては水は引くだろうと思ってパリに滞在したままであった。
ところが、水は1カ月たっても引かず、本社から帰国の要請を受けた。事の重大さを知った社長は、予定を変更して急きょ帰国した。直ちに名古屋からジープを飛ばして木曽川の決壊の現場に駆けつけた。満満と水をたたえたその上に、木曽川の鉄橋が無事の姿を浮かべていた。
これを見た社長は、その場で決定というよりは決断ともいうべき重大事を決めたのである。それは、
「かねてよりの懸案である“ゲージ”統一を、この際実現する。復旧でなくて建設だ」というワンマン決定だ。
当時の近鉄の名古屋線は、大阪から伊勢の中川までは広軌、中川から名古屋までは狭軌であった。そのために、大阪−名古屋間の特急は、中川で乗り換えなければならず、大きなネックになっていたのである。当然のこととして、ゲージを統一して中川−名古屋間を広軌に変えるということが決まっていたが、いろいろな都合で未だ実現せずに、懸案となっていたのである。
翌日、大阪の本社で役員会を開いて、この決定を告げた。その瞬間に、役員は「そんな殺生なこと」というような状態になってしまった。復旧もできないのに建設だというのである。
社長は役員たちを説得し、全社をあげて建設準備を開始した。準備だけでも大変なものだった。
やがて水が引き、工事可能となった。社長の号令一下、全員死にもの狂いの突貫工事が開始された。そして、たった9日間で工事を完成させてしまった。離れ業である。
こうして名古屋線は広軌一本化が完成し、近鉄の大きな収益源となったのである。
この建設工事に大きな力となったのは、台風で被災した社員である。
はじめ、パリで台風被害の報告とともに、7百人の被災社員の報告を受けた時に、社長は「前例にとらわれず、会社として最大限の援助をせよ」という指令を発しておいた。
もしも「よきに計らえ」という馬鹿殿式の指示をしたならば、役員は必ず“慶弔規定”と“前例”にもとづいた、形式的な見舞程度のものになってしまう。これでは被災者の援助にならない。そこで、この指令になったのである。
このために、被災社員は大感激して、「社長の恩情に報いる道は、この建設工事を、どんなことがあっても成功させることだ」となった。
被災しなかった社員も、社長の恩情を目の当たりに見て、「社長は、われわれがほんとうに困った時には救いの手を差し出してくれる」という信頼感を持ったのである。“ストライキのない近鉄”は、このような社長と社員の相互信頼の上に成り立っているのである。
セキやんコメント: 佐伯勇は「独裁はするが、独断はしない」を信条とした。それは、一つの決定を下す際には、それ以前に金も時間も惜しまずにあらゆる知恵を集める。しかし、いざ最終の決断を下す際にはこれは断固として自らが決定する。こうした姿勢を貫いてこそ優れた決定が可能となるのだ。
「経営の腑」第23号<通算 第338号>(2011年4月29日)
販売戦などどこにもない 一倉定著「市場戦略・市場戦争」(社長学シリーズ第8巻)より引用
占有率とは、業界の総売上に対する特定会社の売上高の比率のことである。総売上のかわりに特定商品を入れれば、商品の占有率となる。
占有率が高いほど市場の地位が高いのである。
占有率は、そのまま会社の強弱の物差しとなる。そして、占有率こそ企業の死活を決めるものなのである。占有率が下がるということは、危険が増大していることを意味し、倒産するか、倒産しないまでも業界の最底辺をはいずり回るより外なく、永久に日の目を見ることはできないのである。
売上高が伸びているからといって安心しているわけにはいかないのだ。というのは、競合会社の売上高の伸びが我社を上回っていれば、我社の占有率は下がるからである。
このことが分かっていない社長が中小企業には数多い。そのいい例が、“対前年比売上高伸び率”なる物差しを使って我社の業績を判断しようとしている社長が多いということである。
このデータは経理担当者(そして今はコンピュータ)が出すものであるが、経理担当者(コンピュータのプログラマーも)は事業経営など全く知らないのだ。経営を知らないものが作るデータをそのまま見ている社長は、やはり事業経営など何も知らないのである。
口では「競争が激しくて」なんていうが、それならいったいどう競争しているのだ。競争とは口先だけで実は競争など全くやってはいないのである。
私のこの主張を聞いた社長は、「バカをいえ、死にもの狂いで戦っているのだ」と反論してくる。私は「ああそうですか。戦っているのなら、敵の情報を集めている筈だからそれを拝見したい」というと、「それは…」ということになってしまう。
私がいままでお手伝いした会社で、敵の情報を必死で集め、これを分析している社長は只の一人もいないのである。せいぜい3年前に興信所に依頼して調べた調査報告書があるくらいである。毎年興信所を通して調べている会社など“極上”の部類である。それも、興信所調査報告書綴なるものに、何社も取りまぜて綴じ込んでいるという有様である。
(中略)
中小企業の戦いと称するものの実態はこんなものである。戦いなど何もやってはいないのだ。戦いをやるためには先ず“己を知り敵を知る”ところから始めなければならないのは「孫子」を待つまでもない。その上で「敵の弱点を衝く」のが戦いというものだ
敵も知らず、味方も知らず、ただやみくもに暗闇で刀を振り回しているだけである。そしてそれが戦っているのだと思い込んでいるにすぎないのである。刀を振り回したって、敵を切っているのか味方を切っているのか全く分からないのである。これを私は“闇試合”といっている。
セキやんコメント: 社長自ら闇試合の先頭に立つのは、典型的な空回り経営で、冷徹な市場に淘汰されるのは時間の問題だ。では、社長が我社の全勢力を有効に動かすには、何が必要なのか?それには、まず社長が、戦いには戦いの正しいやり方があるということを知ることだ。そのポイントは、次号にゆずる。
「経営の腑」第24号<通算 第339号>(2011年5月13日)
戦いの正しいやり方 一倉定著「市場戦略・市場戦争」(社長学シリーズ第8巻)より引用
戦いには戦いの正しいやり方――原理がある。まず、原理を知り、この原理をふまえて実戦という応用問題に挑戦するのである。
戦いである限り、敗れたら会社はつぶれる。だからこそ会社の全力をあげなければならないのである。その総指揮は当然社長がとる。その社長が何も知らないのでは話にもなににもなったものではない。
社長たるもの、“戦い”の研究をせずにどうやって戦いに勝つというのだ。この点の自覚をまず持ってもらいたい。そして懸命の勉強をして貰いたいのである。
世にある“セールスマン教育”、“販売管理者教育”という類のものは、販売戦で効果をあげるためには必要であるが、それだけでは戦いに勝つことなどできないのである。何故ならば、それは戦いのための技能や人の動かし方ではあっても、戦略でも作戦でもないからである。
木下藤吉郎が、短槍長槍比較論で長槍有利説を主張し、短槍部隊を試合で破ったのは、短槍部隊は槍術で戦ったのに対して、秀吉は長槍の利点を最大限に利用し、槍隊として戦った。槍術と槍隊の試合は槍隊が勝ったのである。
どちらも足軽を使ったのだから、槍術は五分五分――いや、どちらも素人といったほうがよい。近代的な戦いは、このように部隊をどのように使うか、という作戦によって勝負が決まるものなのだ。個人の技術など勝負に関係がないのである。
全社の販売戦とて同様である。セールスマン個人の能力や販売管理職の能力は大切ではあるが、これだけで敵を圧倒することはできないのである。社長の販売戦略こそ敵を圧倒するか、敵に圧倒されるかの別れ道になるのである。
この点をよくよく認識し、販売戦に勝つための全社をあげての戦いを指揮できるようにならなければならないのだ。
販売戦略――これが会社として動くときは市場戦略となるわけだが、これこそ社長自身が絶対に身につけなければならないものなのである。
セールスマンの個人的な能力や営業部長の力量に依存していると、長槍に敗れた短槍論者になってしまうのである。この点は、強調しても強調し過ぎることは絶対にない。
その意味で、くどいようだがもう一つの実例を思い出していただきたい。それは「長篠の戦い」である。長篠城攻めの武田軍と援軍の織田徳川連合軍との戦いで、織田信長は鉄砲隊を組織して、天下にとどろき渡っていた武田の精鋭騎馬隊を全滅させてしまった。千軍万馬の猛将も、足軽隊の鉄砲の前には手も足も出ず、死山血河をさらすことになってしまった。これを機として武田勝頼は、急速に力を失い、ついに亡びてしまったのである。
長篠の戦いの武田勝頼になるのか織田信長になるかは、社長自身が決めることである。セールスマンの能力に頼って販売戦に敗れるか、社長自らの市場戦略によって敵に勝つか、さあ、どうするか…である。
セキやんコメント: 販売戦にもっとも禁物なのは「幻想」だ。大手有名企業と取引できれば、いつかは取引量が増大し、取引価格もドンドン上がっていくというのは、全くの幻想だ。なぜなら、有名どころには同じように幻想妄想を抱く中小企業者が破格値を手土産に日参するので、決して価格アップなどできはしないのだ。
「経営の腑」第25号<通算 第340号>(2011年5月27日)
ランチェスター戦略の効果 一倉定著「市場戦略・市場戦争」(社長学シリーズ第8巻)より引用
ランチェスターの法則は、あらゆる商品――個別生産品・多量生産品・装置生産品を問わず、大企業・中小企業・零細企業の別なく、いやしくも“販売”(サービス業も)である限り、すべてに適用できるという極めて普遍的なものである。
かくいう筆者も多くの会社でランチェスター戦略を使っているが、その経験を通じていえることは、これなくして販売戦に勝利を収めることは極めて困難だということである。
このことは、ランチェスター戦略がいかに優れたものであるかの実証である。さらに、この戦略の効果に輪をかけるものが各会社で、特に中小企業では全くといっていいほど販売戦略を持っていない点である。I社の社長ごときは「全く無人の野を行くようだ」とさえ云わせたほどである。この会社の場合などは、NO.1は大企業だったのである。たとえ相手が大企業であろうと、こちらが戦略を持って立ち向かうと、意外なほどのモロさを見せることをI社の場合以外でもしばしば私は経験している。「大企業恐るるに足らず」というのが私の実感である。
ましてや中小企業などは、相手から攻撃を受けると全く何のなすすべもなく右往左往するばかりという会社が大部分である。
このような状態の中に、戦略を持った会社が生まれたら、どういうことになるだろうか。I社長の言のごとく、無人の野を行く、ということさえ起るのである。
たとえ、それほどでないにしても、確実に占有率を伸ばしていくことは間違いないのである。
その戦略は、決して難しいものでも複雑なものでもない。極めて簡単な法則に基づき、自らの会社の戦力――たとえそれが小さなものであろうとも――に応じた作戦が可能なのである。というのは、セールスマン一人、いや社長一人からでも作戦を開始できるからである。
そこに戦略理論で武装した強みがあるのだ。社長たるもの、この理論を身につけないという法はないではないか。ただし、只一つの条件がある。その条件というのは「社長自らが陣頭に立って指揮する」ことである。
「販売なくして経営なし」、事業経営の最重要活動を社長が自ら指揮しないというのでは、いかに優れた戦略であろうと、それは絵に描いた餅にも等しいものになってしまうのである。
販売戦の先頭に立たない社長こそ、怠慢社長の最たるものと云われても仕方がないのである。
セキやんコメント: 昨日面談し、ランチェスター戦略の応用である95%の原理で扱い商品の棚卸しを指導した女性社長は、「これが分かっていれば、こんな赤字にはならなかった」としみじみ語った。そして、エネルギーをかけるポイントが明確になった途端「すごく事業が楽しみになった!」と、爽やかな180度の大変身だ。