Sekiyan's Notebook グローカルニュース〜経営の腑

セキやん通信「経営の腑」


「経営の腑」第428号<通算743号>(2025年8月1日)

起業者が陥る わな 〜自分見失わせる「酔い」〜
  出典:岩手日報「いわての風」寄稿記事(第27回目 2014年3月2日)

 縁もゆかりも無い当地で起業し、今や県内業界のトップとなったS社長の座右の銘は、高杉晋作の言とされる「凡人なるものが物事を成就するには狂を発揮せざらん」だ。
 S社長のような筋金入りの起業家はもとより、自営業者のはしくれとなった自分の17年前を振り返っても、起業は日常から非日常へのダイビングのようなもので、それなりの覚悟や思い切りが要る。
 だから、起業時は例外なくある程度の「ハイテンション」状態となっている。これは、アルコールによる「酔っ払い」状態と似ており、判断力は正常とはいえない。根拠のない強がりにすがる、虚勢を伴うハイの状態だ。
 そして、これに拍車をかける一団の登場だ。
 それは、迷いなくかつ悪気なく心底から良かれと、起業者の支援に乗り出す商工関係や行政などの支援機関だ。こうした善意?の第三者がハイテンション状態を助長する片棒をかつぐ。
 たとえば、霞が関が「起業支援」にかこつけて予算を確保する。そして、やみくもに補助金を関係先にバラまく。
 そその補助金で地域の支援機関が創業者向けのセミナーを乱発し、内輪の起業者を先進事例として祭り上げほめそやす。そこに新ネタが欲しいマスコミが飛びつく。テレビ・新聞に取り上げられ、起業者群はさらに酔いが増し自分を見失う。
 誤解を恐れずにいえば、こうしたピント外れな動きが、純粋な起業者をほろ酔い状態から酩酊(めいてい)状態へと誤誘導してしまう。
 しかし本来、起業者が相手にしなければならないのは「個客」や「市場」なのであって、決してお上やマスコミではない。
 現に、市場では既存業者を含めた熾烈(しれつ)な戦いが展開されている。こうした厳しい戦場に、素人同然の新参者が「酔っ払い」状態で参戦するとどうなるか?結果は、火を見るより明らかだ。
 だから、起業時点まではほろ酔い気分でもやむを得ないが、起業後は一刻も早く「シラフ」になって、熾烈な戦いに臨まなければならない。そこで、以下に真っ当な起業者が心得るべき事項を二つ挙げてみたい。
 まず第一は、事業経営は顧客活動である、という真理を受け入れることだ。
 事業はお客さまに評価され感謝されて初めてその対価が得られる。
 ところが、補助事業に慣れてしまうと、どうしてもお上に目が行き、もっぱらの関心が顧客から離れてしまう。
 「お上カクテル」の飲み心地の良さにだまされて、はまってしまわないよう要注意だ。これが過ぎると、事業経営の腰が抜けてしまって立ち上がれない。
 第二は、自律モードを堅持することだ。
 起業前後は心細く不安でいっぱいだ。だから、つい同じ境遇の仲間と群れたくなる。もちろん励まし合い切磋琢磨(せっさたくま)する同志であれば良いが、ともすれば傷をなめ合うグループも少なくない。
 起業時もそれに続く経営者への道も、基本は孤独だ。その孤独をしたたかに楽しむくらいの度量を身につけたい。起業にかかわる集まりは官民問わず数多く、なかにはカルト的精神論や観念論で盛り上がる会合もある。しかし、事業の対象は「夢見る自分」ではない。盛り上げる対象は現実のお客さまの方なのだ。
 こうした会合の多くは限りある経営資源の浪費となる。地に足がつかない「観念論のはしご酒」で千鳥足ならまだしも、悪酔いしてはならない。
 S社長が体現しているように、顧客活動と自律モードに徹すれば、必ずや起業家としての道は開ける。
 それには、即刻「シラフ」状態に立ち返り、お客さまと真摯(しんし)に向き合い、教えを請うことだ。その先にこそ、事業経営者としての光明が差してくるのだ。

出典:岩手日報「いわての風」(2014年3月2日)寄稿記事へのリンク

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