Sekiyan's Notebook グローカルニュース~経営の腑

セキやん通信「経営の腑」


第251号“経営計画なくして経営なし”<通算566号>(2018年11月16日)

第252号“経営計画を持て”<通算567号>(2018年11月30日)

第253号“我社の安全を図る”<通算568号>(2018年12月14日)

第254号“顧客サービスと収益は紙の裏表”<通算569号>(2018年12月28日)

第255号“会社の使命はお客様の要求を満たす”<通算570号>(2019年1月11日)

「経営の腑」第251号<通算566号>(2018年11月16日)

 経営計画なくして経営なし  一倉定著「経営戦略」(社長学シリーズ第1巻:1975年刊)より
 経営計画を持っている会社は、意外な程少ない。筆者が初めてお伺いする会社で、経営計画書を持っている会社はあまりない。
 たまにあっても、それは経営計画書ではなくて、管理計画書ともいうべきものにしか過ぎない場合が殆んどである。これではダメである。
 社長自らが立てた経営計画書がなくて正しい事業経営は不可能である。そのわけは、経営計画書以外に社長が我社の全貌を知り理解する方法は無いからである。己を知らずして事業経営ができる筈がないではないか。
 といっても、経営計画は我社を理解することが目的ではない。あくまでも我社が激しい競争に打ち勝ち、市場と顧客の要求の変化に対応して生き残ってゆくための条件を決めたものである。
 その経営計画を作成する段階で、自然に我社が理解できるのである。
 それは、想像以上に厳しいものである。そして、今まで如何にうかつで怠慢であったかも、同時に思い知らされるものである。
 社長は、事態の容易ならざるを知ると同時に、自らの責任の重大さを再認識すると同時に、これに挑戦してゆくファイトも湧き起ってくるのである。社長の決意がここに固まってくるのである。
 しかし、それには社員を指揮し、その協力を必要とする。ここに、リーダーシップの重要性が浮かび上がってくる。
 では、そのリーダーシップを、どのように発揮したらいいか、ということになる。
 リーダーシップの第一要件は「自らの意図を明らかにする」ことであるのは論を待たない。
 これを発揮するための最大のツールこそ、経営計画書なのである。
 社長の決意、目標、行動要項などが明確に示されている。これに社員は動機づけられるのである。
 その実証は、経営計画発表会における社長の方針説明で、社員は動機づけられて、目の輝きや動作がその場で変わってくるのがハッキリと分かるのである。この時を境にして、社員は変わってしまうのである。
 さらに、発表会にメーンバンクの支店長をはじめ、お客様を数名、場合によると筆者の行う“経営計画実習ゼミ”で知り合った社長などを招待申し上げるのだが、社長の方針説明によって大きな感銘を受ける。
 そして、メーンバンクの支援が全く変わってしまうのである。こんな心強いことはないではないか。
 このように経営計画書によって会社は全く生まれ変わるのである。
 会社に奇跡を呼び起す経営計画書。それは、社長自らの責任と意志で、自らが作成したものだからである。会社は、社長一人でどうにでもなるものなのである。

セキやんコメント:  この書が上梓されたのは43年前だ。その後、だいぶ経営計画策定を行う経営者も増えてきて、ある程度の企業では曲がりなりにも策定されている。しかし、そのレベルについては、社長自らの魂を入れて作られているものは、増えてないように感じる。計画経営、真剣に吟味すべし!

「経営の腑」第252号<通算567号>(2018年11月30日)

 経営計画を持て  一倉定著「増収増益戦略」(社長学シリーズ第5巻:1979年刊)より
 私にも、実務の経験が15年ほどある。その経験の中で、私が最も困ったことは、社長が自らの方針を明らかにしないことであった。
 懸命になって、自らの職責を果たそうといくら考えても、社長の意図が分からないでは、どうにもならない。
 仕方がないので、自分なりに社長の意図を推察して行動に移そうとすると、必ずといっていいほど、関係部門からの批判や反発が出るのである。そして「一倉の点数かせぎだ」というのである。懸命になればなるほど、浮き上がり孤立してゆくのである。本当のところ、やりようがなかったのである。
 もう一つ、最も不安だったのは「我社の将来はどうなるだろうか」ということである。
 会社の将来が、自分の将来を決めるのに、社長は何も将来について語ってはくれなかったのである。これは、私だけではなかった。先輩や同僚の言葉の端はしに、この不安が感じられたのである。
 そして、コンサルタントになってからは、さらにそのことを思い知らされることになったのである。それは「経営計画」である。私自身の経験からして、私は経営計画の樹立を社長に勧めた。社長自らの姿勢と方針を、経営計画に明文化して社員に協力を求めることの必要性を痛感していたからである。
 私が驚いたのは、経営計画発表会である。会に参加する幹部社員は、経営計画とはどういうものか知らずに、「集まれ」と言われたから集まったというような顔をして会場に入ってくる。
 その社員が、社長の説明を聞いているうちに、次第に真剣な表情となり、しまいには食い入るように社長の顔を凝視しながら、社長の一言一句を聞きもらすまいとするように変わっていったのである。
 それは、社員が最も待ち望んでいた社長の言葉だったからである。
 この説明会を境として、社員が変わってしまった例を、私は数多く見せつけられて来ているのである。R社長は「こんなに驚いたことはない。会社の空気がすっかり変わり、すごい意欲の盛り上がりです。私の新たな心配は、このムードをどうやって持続するかです」と私に語った。しかし、社長の心配は不要だったのである。
 経営計画は、社員を変える前に社長自身を変える。というのは、経営計画によって社長は我社を知るからである。(経営計画以外に、会社全体を知る手段はない、というのが、私に経験を通しての実感である)
 経営計画によって、社長は自ら何をしなければならないかを知り、同時に増収増益の道を知るのである。迷いは吹っ切れ、自信をもって事業を経営することができるようになるのである。
 事業の経営は社長一人ではできない。得意先、仕入先、銀行など、外部の信用と、内部の社員の信頼と協力あってこそである。
 そのための要件として、まず第一には、経営計画によって自らの姿勢と方針を明らかにすることであり、第二には、この計画実現のために、社長が陣頭に立って奮闘することである。
 そして、事業経営の全体を通じて、片時も忘れてならないのは「お客様」である。お客様以外には何も考える必要はない。お客様に対して正しいサービスをしている限り、増収増益は自然に実現できる。
 増収増益こそ、社会に奉仕し、会社を安泰にし、株主に報い、社員の生活の安定と向上を実現するものだ。

セキやんコメント:  中小機構東北本部からの発行冊子「計画経営のススメ」が好評だ。この冊子のベースは、一倉定方式を凝縮して小職がまとめた「Sフレームのすすめ」だ。ポイントは、お客様ファーストと管理会計による計数管理の仕組みを作り、PDCAを回すというシンプルなやり方だ。

「経営の腑」第253号<通算568号>(2018年12月14日)

 我社の安全を図る  一倉定著「増収増益戦略」(社長学シリーズ第5巻:1979年刊)より
 企業存続の最高責任者である社長は、存続をおびやかす危険を絶えずチェックし、危険から遠ざかる手を打ってゆかなければならない。
 企業の危険というものは、多岐にわたっている。社長は、それらの危険とはどのようなものであり、どうチェックし、どう対処してゆかなければならないかを、知っていなければならない。それは、単に我社のみならず、得意先についても監視を怠ってはならないのである。
 そして、一般的には、バランスシートと損益計算書の分析を行うにしか過ぎないのであるが、企業の危険度チェックは、それだけで事足りるほど簡単なものではないのだ。
 そこで、本章では、バランスシートと損益計算書以外に、チェックしなければならない危険について、その主なものを述べてみることにする。それは次のようなものである。(…以降は、セキやん追記)
 1.占有率はどうか…ABC分析や社長訪問による情報収集が肝要
 2.年計はどうか…客先、商品別のそれぞれの年計グラフから市場評価の気づきを得る
 3.季節変動はどうか…閑散期、繁忙期の営業戦略や在庫戦略が重要
 4.市場の危険分散の度合いはどうか…客先および商品それぞれの構成の把握と展望
 5.内外作区分はどうか…繁忙期と閑散期の生産能力、繁忙期の機会ロスなどはないか
 6.支手回転率がどうか…できれば、オール現金払いに向けてスソ切り作戦を展開する
 7.賃率はよいか…全部原価計算と決別し、我社の正しい収益性指標を持つことは必須
 というのが主なものである。
 以上の分析は「事業構造」を、いろいろな角度から分析したものであることに気づかれると思う。
 社長の最も大切な役割は、まず我社の事業構造を安全なものにし、この基盤に立って経営を行うことなのである。

セキやんコメント:  リスク回避といえば、大仰に聞こえるが、上記のようにポイントは多くない。それが分からずに、闇雲に右往左往している経営者は多い。地に足をつけて、上記要素の確実励行を繰り返すことで、シンプル経営が間違いなく実現する。

「経営の腑」第254号<通算569号>(2018年12月28日)

 顧客サービスと収益は紙の裏表  一倉定著「増収増益戦略」(社長学シリーズ第5巻:1979年刊)より
 B社は、パンと洋菓子のメーカーである。販売は直営店とフランチャイズ方式によるチェーン店であった。
 B社長の悩みは、売上がいま一つ不足していることであった。B社長は、ご多分に漏れず“穴熊社長”だった。私のすすめでチェーン店巡りをした社長は、思ってもみなかった数々のことにぶつかったのである。
 まず、第一には、どの店でも口を揃えて言われたことは「配送時間を1時間早くしてもらいたい。できなければ30分でもいい」ということだった。セールスマンに何十回となく言っても、どうしても聞いてもらえないのだ、という。社長にとっては全くの“初耳”だったのである。創立以来20年にもなろうというのに、その間大勢のセールスマンが、何百回となく言われたことなのに、誰一人としてこれを社長に報告するものはなかったのである。
 これがセールスマンの生態の一つなのである。セールスマンの頭の中には、いろいろなフィルターがあり、このフィルターに引っ掛かった情報は社長に報告されないのである。
 この場合のフィルターは「お客さんはそうして貰いたいだろうが、我社には我社の都合がある。夜勤は何時までで、昼勤は早朝何時からだ。製品の出来上がるのが何時で、それから配送車に積み込んで出発は何時になる。だから、そんなことを言われてもムリだ」というのである。
 第二には「配送用の箱がきたない」といわれた。空箱を店先に積んでおくより外にないのに、これが汚くては不衛生だとお客様に思われるからだ。これもセールスマンに何十回となく言っているが、いつまでたっても直らないということであった。これも社長には初耳であった。例のセールスマンのフィルターは「空箱を回収して帰るのは夕方になる。時間がなくて洗っているひまはない」というのである。
 第三には、一つの箱に何種類もの菓子を入れるので「配送中にくっつき合って、別の菓子の色がついて商品価値を落とす、何とかしてくれ」ということであった。これも勿論初耳であった。
 まだあった、土曜日や日曜日にはよく売れるので、「追加注文を出しても、全部断られる」というのであった。社長はこんなことがあるとは夢にも思っていなかった。これは、追加注文を製造部門にもっていっても「一升マスに一升五合は入らない」と断られるからであった。
 B社長はビックリの連続であった。これが、私が繰り返し何百回となく言い続けている「社長はお客様のところに行け」という理由である。お客様のところでは、社長が思ってもみなかったことが起こっており、これが我社の信用を大きく落とし、業績の足を引っ張っているものなのだ。
 B社長は直ちに手を打った。夜勤を充実して昼勤の負担を減らして配送時間を早め、空箱は夜勤のパートを雇って洗浄した。種類の違う菓子を詰め合わせる時は仕切紙を用いた。土曜、日曜の追加注文は、予め月曜から金曜まで作りだめして冷蔵庫に入れておくことによって応じられるようにした。
 効果はテキメン、売上は力強い足取りで上昇しだしたのである。

セキやんコメント:  穴熊社長が、お客様訪問をすると“初耳”のお客様要望が確認でき、その結果、経営者として社員にはできない施策を迅速に打つことに繋がる。当然、業績は一気に加速する。これが、小職の支援先が好転する通常プロセスだ。当たり前のことを当たり前に実行する大事さを感じて欲しい。

「経営の腑」第255号<通算570号>(2019年1月11日)

 会社の使命はお客様の要求を満たす  一倉定著「新・社長の姿勢」(社長学シリーズ第9巻:1993年刊)より
 私がT化成に初めてお伺いしたのは、昭和50年の冬のことだった。当時は石油ショック後の不況のため、T化成の売上は低下の一途をたどっていた。限界生産者なるがために、不況時には大手より弱かったのだ。
 高度成長時代とは全く違った情勢の中で、M専務はどうしてよいか分からずに、悩み、迷っていた。
 その限界生産者が、現在は業界のトップとなり、70%もの独占的占有率を確保しているのである。
 私がM専務に説いたのは、枝葉末節の方法論ではなく、経営者としての正しい姿勢であった。
 それは「会社はお客様あって初めて存在する。会社の使命は、お客様の要求を満たすこと以外の何物でもない。我社の事情は一切無視して、ただひたすらお客様のためにサービスするのだ。その結果、高収益は自然に実現する」という要旨だったのである。
 そして、「そのためにまずやらなければならないのは、M専務自らがお客様のところに行って、自らの目と耳と肌でお客様の要求をシッカリと捉えることから始めなければならない。一週間に5日は外に出て、その大部分はお客様のところへ行くのだ」と。
 私の勧告に従ってお客様のところへ行ったことが、M専務を生まれ変わった程に変えてしまったのである。
 というのは、M専務が今までセールスマンの報告を聞いて想像していた世界とは、全く違った世界があったからである。そこにはお客様の不満とT化成に対する批判が充満していたのである。
 自らの会社が、今までいかに間違っていたかを痛感したM専務は、私の勧告の意味が理解できた。そしてお客様サービスの正しい姿勢に変わったのである。
 M専務がお客様のところに行くようになってから、わずか3ヶ月後には、低下を続けていた売上が上昇に転じ、それ以後は上昇し続けであり、その勢いは増すばかりである。
 M専務に会って以来、私は具体的な勧告はごくわずかしかしていない。初めのうちはM専務の姿勢を確認していたが、最近は逆にM専務から経営者の正しい姿勢に対して教えられることばかりなのである。
 一例をあげれば、ある時M専務は私にこう言った。「一倉さん、私は新商品の開発には永久に困らないという自信がつきました。それは、どんなものを開発したらいいかということは、お客様のところを回ってさえいれば、お客様がいくらでも教えてくれます。私はただ忠実にお客様の教えを守っているだけでいいのです」と。
 事実、次々に発売されるT化成の新商品は、いつもいずれもお客様の方から飛びついてくるのである。
 お客様の、T化成というよりM専務に対する信頼は絶大である。その信頼は年ごとに高まっていく。このお客様の信頼に支えられたT化成の経営は、正に盤石といってよい。競合他社は全く歯が立たないだけでなく、どんな世の中になっても絶対につぶれない会社であることを、私自身信じていささかも疑っていないのである。
 私が初めに勧告した「お客様訪問週5日」を今日においてもM専務はいささかも崩していない。まだ若いM専務は、これから十数年、いや二十数年でも経営者の座にある限り、お客様を訪問し続けることだろう。
 私がこの本で主張したいことは、実はこの専務の姿勢で全部なのである。「ただひたすらお客様のために」、これ以外に、事業の経営はないのである。何をどうやろうと、何がどうなっていようと、お客様を忘れた会社はこの世に存在し続けることはできないのである。

セキやんコメント:  大手の場合は、他社に先んじて自らの企画で商品開発をしても良いかもしれない。しかし経営資源に余裕のない中小企業の場合は、ハズレは許されないのだ。だから、お客様の不便・不平・不満などを良くお聞きした「不」の解消をベースとした開発に絞るのが、合理的かつ賢明なのだ。

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