「経営の腑」第351号<通算666号>(2022年8月19日)
売上年計表 一倉定著「マネジメントへの挑戦 復刻版」(原本:1965年刊)より
会社というものは、成長する以外に生きる道がない、という宿命をもっている。
経済は年々成長する。業界も年々成長する。もし、業界の成長率が経済の成長率よりも低ければ、その業界は斜陽業界であり、しだいに経済全体のなかに占める比重が減って、不況期には不況のシワをより強くよせられ、好況の時はその恩恵が少ない。
これをくり返しながら、ついには好況でも浮かび上がれぬ“沈没産業”になってしまう。もしも、そのような状況がみえたなら、他業界に転進するか、新機軸による巻き返し作戦が絶対に必要となる。
自分の会社の属する業界が、わが国の経済成長率より高いならば、その心配はない。けれども、それだけでは安心できないのだ。業界のなかでの自分の会社の地位である。同業界のなかで、自分の会社の地位を守らなければ、しだいに業界のなかでの地位が下がってゆき、ついには脱落してしまう。業界のなかの地位は、市場占有率でみるのが普通だ。占有率があるパーセンテージ以下の会社を“限界生産者”という。消え去る運命にある会社である。
であるから、会社は業界の成長率よりも、つねに高い成長率をもっていなければならない。とすると、いつもこれを見守っていなければならないことになる。
年1回や2回の決算では、テンポの早いこれからの経営には、時機を失するおそれがある。といって、月々の売上をグラフにしてみても、季節によって売上の差があるので、成長しているかどうかをつかむことは困難である。
成長の状況をいち早くつかむには、年計表がいちばんよい。年計表というのは、毎月その月からさかのぼった1年間の合計を出して、これをグラフにしたものである。
こうすると、つねに1年のすべての月を含んでいるので、季節的変動を完全に消し去ることができるからである。
もっとわかりやすくいえば、毎月売上の年次決算をやっているのと同じである。したがって、成長の状態を、カーブを見ただけで簡便につかむことができるのである。
筆者は、調査にうかがった会社の決算報告書を、三期連続して拝見することにしているが、もし、売上の伸び率が低いと、すぐに年計表を作成して、その状況をつかむことにしている。最近行った会社で、売上が頭打ちしながら、経営者がこれに気がついていない、という会社が数社あった。
年計表のもう一つの効用は、景気の変動をいち早く察知できることである。業界の年計表をつくるのである。これは普通、ゆるい波形をえがきながら上昇していく。その波の山に向かう期間が好景気であり、谷に向かう期間が不況期である。山の頂上付近と谷底付近は傾斜がゆるくなっている。であるから、上昇の傾向がゆるくなったら、景気はそろそろ頭打ちであり、波の底から上昇しだしたら景気は回復に向かっていると思えばよい。
いち早く景気の動向をつかんで、手をうつことが、たいせつなことは、いまさら言うまでもないことである。
また、年計表は売上だけではない。いろいろなデータにこの考え方を応用できるのである。
セキやんコメント: 年計グラフは「お客様の当社およびその商品に対する評価」そのものだ。従って、上昇しているものを重点化するだけで、お客様のご要望に沿うことができるのである。その際ただ一つの留意事項は、それが「わが社の収益性を確保していること」の確認である。これが「Sフレーム」の2本柱だ。
「経営の腑」第352号<通算667号>(2022年9月2日)
未来事業費 一倉定著「マネジメントへの挑戦 復刻版」(原本:1965年刊)より
こういう費目は、いままでの経理用語にはない。これについて述べる前に、田辺製薬の社長、平林忠雄氏が「実業の日本」誌の昭和39年3月1日号にのせた「利益の見方と考え方」のなかの一節を紹介しよう。
『利益を見る場合、きわめて重要な前提がある。それは、税制の認める限りの引当金、償却保留を全部おこなった上での利益であるかどうか、また将来に対して前向きの措置をとった上での利益であるかどうかの二点である。
当然100%の内部留保が必要なことはいうまでもないが、前向きの措置とは、人材の養成に十分な経費をつかうこと、製品開発に思いきった開発研究費を投じること、生産設備の合理化、事務の能率化、あるいは販売や購買の組織(これは国内、海外ともに)の強化を不断にすすめるなどであるが、これらが十分行われていなければ、いくら表面に出される利益の絶対額が大きく、また高い利益率であっても、本当に企業が発展しているとはいえない。企業の永続性ということからすれば、内部留保を含めて、前向きの措置について、たえず努力しているということが、もっとも大切なことだといえよう。』
この前向きの措置に使われる費用を、未来事業費というのである。
これからの会社は、現事業のみに心をうばわれて、将来の備えを怠ったら、それは破綻につながる。
会社の将来を創造するために、現在使われる費用の絶対額の大きさと、その効率こそ、会社の将来の運命をきめるといえよう。
未来事業費によって蓄積された、潜在的実力こそ、ほんとうの意味の内部蓄積なのである。
財務的蓄積のみをもって、事足れりとしていられる時代ではない。それどころか、未来事業費において遅れをとって、ピンチに追い込まれたときには、財務的な蓄積など、アッという間に食いつぶしてしまう。
であるから、これからの会社は、未来事業費を分離して管理する必要が絶対にたいせつなのである。つまり、現事業利益をいかに大きくするかをまず考え、つぎに、企業の運営に必要な最低利益を確保した残りは、全部未来事業費に投入し、研究陣、販売網、人材などの強化育成をはかるのである。
この意味においても、「利益が最大になるように行動する」という古い概念は通用しないのである。古い概念にとらわれて、原価は安ければよいとばかりに、コスト・ダウンばかりを強調したらどうなるか。コスト・ダウンの早道は、未来事業費をけずることである。というのは、これをけずっても、現事業にはなんの支障もないからである。こうした安易な考え方が、いかに多く横行しているか、例をあげるまでもなかろう。その結果は、会社を窮地に追いやるのである。
コスト・ダウンというのは、現事業費にのみ適用できる考え方なのだ。三度のメシ(現事業)は二度にしても(節約しても)、子供の教育(未来事業)をするのが親(経営者)のつとめなのである。
未来事業費は、会社の経費として落とせる費用である。これの分に相当するだけ節税できるのだ。会社の潜在的実力を身につけると同時に節税できるとは、こんなうまい話はないのだ。一石二鳥とは、こういうことのためにある言葉であろう。
セキやんコメント: 「未来事業費は経費として落とせる」ということは、本来この分の利益金にかかる税金を踏まえると、税額が低減された分については“実質的な補助金”と捉えることができる。こうした観点も加味して、一倉が「未来事業費」を強力に推奨する根拠となっている。
「経営の腑」第353号<通算668号>(2022年9月16日)
生産性ということ 一倉定著「マネジメントへの挑戦 復刻版」(原本:1965年刊)より
企業体で、ふた言めにでることばは「原価はいくらか」であり、「原価計算の必要性」である。筆者は、このことばをきくたびに「またか」と思う。原価を知り、また原価を引き下げることはたしかに大切である。
しかし、原価を引き下げることが必ずしも業績をあげることとは直結しないのである。時によると、原価引き下げが愚策になる場合さえあるのだ(前項の拙著を参照されたい)。全部原価による原価計算など、やらないほうがいいのだ。私は、原価計算制度を作りたいという相談を受けると「おやめなさい」ということにしている。
原価というのは、“いくらかかったか”ということである。いくらかかったか、ということばかりに関心があっても、“いくらかせぎだしたか”“どうしたらかせぎがふえるのか”ということは考えない。まことに不思議である。
家計にいくらかかったか、には関心があっても、どうしたら収入を増やすことができるか、を考えないのと同じようなものだ。
“出ずるを制し”ても、“入るを計らない”のでは、いつまでたっても、うだつはあがらないではないか。
“入るを計る”には、ほんとうの収入とは何かを知らなければならい。ほんとうの収入は、売上ではない。
外部から仕入れたものは、社内の生産活動には関係ない費用である。だからこれらを売上から引かなければ、ほんとうに社内で生み出した価値(これを「付加価値」という)は分からないのである。
つまり、「付加価値」(=企業が製品またはサービスを売って得た総売上額と、外部からの原材料またはサービスの総買入額との差額)こそが、ほんとうの収入である。
付加価値は、企業が生きていくためのカロリー源であると同時に、どれだけの価値が製品のなかに織り込まれたかを明らかにする。また、市場が企業の努力をどれだけに評価しているかを示すものなのである。
付加価値を生みだし、かつ大きくすること、これが企業の任務であり、“生産性向上”というのは、この付加価値を大きくすることであって、売上を増加することでもなければ、利益を大きくすることでもないのである。付加価値というのが、生産性の量的な基本概念なのだ。
われわれは、付加価値を大きくするためにはどうしたらいいか、を考えることが最もたいせつなのであって、またこれが会社の業績向上に最も大きな役割を果たすものである。
会社の業績を伸ばす最も大きな道は、付加価値の増大をはかることであって、原価を節減することではないのである。といっても、原価節減が無意味なのではない。原価節減第一主義ではいけないというのだ。
付加価値の考え方から、生産性を向上させるには
1.売上に対する付加価値額の割合を大きくすることである。これには、第一に新製品を開発することであり、第二に引き合う仕事をみつける、という方針が導き出されてくる。原価引き下げよりも、まずこれが優先することなのである。第三に、原材料と外注費の節約である。これが原価引き下げである。
2.付加価値のなかに占める利益の割合を多くすることである。この利益とは、現事業利益であることはいうまでもない。このために、第一には労働を有効に利用することであり、第二には現事業経費を節約することなのである。
セキやんコメント: ヒトが付加価値を創り出す仕事である製造業・加工業・サービス業・建設業など多くの業種の場合は、その制約条件となる直接要員の「人時生産性」が収益性指標となる。限られた直接要員が、「時間当たりにどれだけ多くの付加価値額」を獲得できるかが、収益性のモノサシとなるのは必然だ。
「経営の腑」第354号<通算669号>(2022年9月30日)
生産性の測定 一倉定著「マネジメントへの挑戦 復刻版」(原本:1965年刊)より
われわれは、企業の任務である付加価値生産性の向上を目指して努力をつづけるために、もう少し生産性についての考察を進めてみよう。
生産性は、産出量(アウトプット)と投入量(インプット)との関係であるから、会社全体の生産性という総合的なものをまず把握し、さらにそれをいろいろの角度から測定し、検討する必要がある。
それには、付加価値を生み出すために投入された、いろいろの要素、つまり資本、設備、労働、賃金などについて、それぞれの生産性をみるのである。さらに、製品別、部門別の測定も必要である。製品別、部門別については、後述する「生兵法の賃率」および「採算性の測定はこうして」にゆずって、ここでは、資本生産性、設備生産性、労働生産性、賃金生産性について考えてみることにする。これらを表にまとめてみるのが便利であろう。
・・・【参考】表の項目:「@売上高」「A付加価値」「B総資本」「C設備(または固定資産)」「D人員」「E賃金」「F労働装備率(C÷D)」「G総資本生産性(A÷B)」「H設備生産性(A÷C)」「I労働生産性(A÷D)」「J賃金生産性(A÷E)」「K賃金分配率(E÷A)」
少なくとも三期分くらいを一覧表にして、その傾向を指数としてみるのである。ただ一期だけの分析では、絶対値が分かっても傾向が分からない。絶対値は悪くとも、それが上がり傾向ならば、いまのやり方がいいのであるから、心配はいらないのである。絶対値はよくても、それが頭打ちや下降傾向ならば安心しているわけにはいかないのだ。だから、表の最初の期を指数100として、三期以上にわたって指数を出すのだ。前期比というのは、あまりあてにならない。前期比がよくても、前々期より悪いことがあるからだ。
あくまでも基準指数に対しての一貫した指数でなければならない。
まず、売上高指数に関する付加価値指数である。付加価値指数が、売上高指数より伸び率が低ければすでに問題である。製品混成はいいか、付加価値を落としている元凶はどの製品か(これは後述の「採算性の測定はこうして」を参照されたい)を見きわめて手をうつ必要がある。
つぎには、付加価値の指数をもとにして、それ以下の項目の指数との比較をするのである。
総資本の効率はどうなのか、設備は有効に生かされているか(設備は、減価償却をしているのが普通であるが、設備そのものも、実際は減価償却率ほど低下していないから、その分を勘案して考える必要がある)、労働生産性や賃金生産性は落ちていないだろうか、をみるのである。とくに、賃金生産性は最低の賃金の上昇分をうめあわせできているかどうかを判定することができるのである。
賃金分配率については、「9章 労務管理の基礎は賃金」で詳細に述べることとする。
セキやんコメント: この項で一倉は、経営をバランスよく進めるためのポイントについて「生産性」という指標を用いて述べている。そのなかで、わが社が高収益を得るには、上記の「製品混成はいいか、付加価値を落としている元凶はどの製品か」が再重要で、これを最優先事項として対応するのが賢明である。
「経営の腑」第355号<通算670号>(2022年10月14日)
生兵法の賃率 一倉定著「マネジメントへの挑戦 復刻版」(原本:1965年刊)より
賃率とは、ひらたくいえば直接工が単位時間に生みだす工賃(付加価値)のことである。この賃率を工賃計算に使うときの計算式は、 工賃=賃率×加工所要時間 となる。
この賃率の意味と使い方を、よく心得ている人が驚くほど少ないのである。そのためにどのくらい無用の混乱が生みだされているか、はかり知れないものがある。混乱だけですめば、まだしもガマンができる。しかし、これが知らぬ間に生産性の向上をはばみ、合理化を遅らせているのだから、ほったらかしておくわけにはいかない。
(中略:この後、例をあげて説明しているが、少々回りくどいので、以下に小職の解説を掲載する)
【賃率活用の根本的間違い:一倉が述べているように、賃率は本来「付加価値」で規定されなければならない。しかし、圧倒的多数の企業では、労務費に由来する「経費(人的原価)」として設定されている。これが、「ボタンの掛け違い」の根本的原因である。詳細は、下記の小職解説を参照あれ!
賃率について (以下、引用文原典に戻ろう)】
生兵法は大ケガのもと、賃率の使い方を誤ると、生産性向上を阻害し、コスト・ダウンで遅れをとる。自分の首を自分で絞めることになるのである。
賃率のほんとうの使い方は、外注品の工賃算定に使うよりも、自社の採算性および生産性の測定や評価に使い、前向きに利用することだ。その考え方とやり方を、次項の「採算性の測定はこうして」で説明することにする。その説明の前提として、賃率の計算法を次に述べよう。(→上記Webサイト資料3項参照)
賃率を少なくとも損益分岐点賃率、必要賃率、実際賃率の三つくらいには分けて考えるのである。
賃率は、将来に向かって前向きの姿勢で使うのがほんとうであるから、その計算式は、ある期間について前述のようになるのである。
必要利益は、利益計画にもられた数字であり、もしはっきりした利益計画がないなら、それ自体が問題なのである。うちの会社は下請けだから、そんなことはできないと考えてはダメである。下請けであろうとなかろうと、必要利益がなければ食っていけないのだから、必要利益はいくらか、を押さえてこれを上げるための対策をとらなければつぶれてしまう。利益を上げられるとか、上げられないとかの問題ではないのである。どうしても、ぎりぎり最低限必要な利益はこれこれである、というふうに、利益は“できるだけ多くの利益”ではなく、“どうしてもこれだけは”という最低利益を押さえ、これを上げることが、ギリギリ最低限の生きる要件なのだ。では、この必要利益のメドをどこにおいたらいいか。簡易な方法を、田辺昇一氏はつぎのように教えてくれている。
下請け企業・・・年間税込利益は従業員一人当たり10万円以上
自社製品を持つ工場・・・年間税込利益は従業員一人当たり20万円以上
中小企業には、まことに便利な指標であろう。(1965年当時の数値・・・あくまでも考え方の参考)
セキやんコメント: わが社の「手に入れたい結果」=生きるための条件(固定費)+トップの意思(必要利益)という仕組みから逆算で、時間当たり獲得付加価値の目標設定をして、逆算見積根拠や案件ごとの収益性把握にフル活用するのが「賃率」である。ヒトが付加価値を創り出す企業には必須アイテムなのだ。