「経営の腑」第426号<通算741号>(2025年7月4日)
個を生かす組織のために 〜不作為の状態を排せ〜
出典:岩手日報「いわての風」寄稿記事(第25回目 2013年6月30日)
来年のサッカーW杯への出場をいの一番で決めた決戦の後、本田選手が「日本の強みはチームワークだが、来年に向けていかに“個”を高められるか」と語った。
その言や良し、である。この組織と個人の関係は、いわば人類永遠のテーマだが、これについて大きな示唆を与える著書が北上市在住の高橋正典氏によって発刊された。
高橋氏とは、中小企業大学校の講義などで十年以上の付き合いになるが、歯に衣着せぬ言動の仲間で、ウマが合う。氏は、一年ほど前から療養生活を余儀なくされ、その間に自らライフワークとする「リーダーシップ」について体系的にまとめた。それが、「リーダー学のすすめ」である。ところどころ校正漏れがあるのは自社出版で初版ゆえのごあいきょうだ。
ところで、今シーズンのプロ野球では県人選手が大活躍で、楽しみが増えた。
地道に活躍する畠山和洋選手や銀次選手に加えて、しっかりと下積みで力を蓄えた菊池雄星投手とセンス抜群の大谷翔平選手の花巻東高出身コンビの輝きはまぶしいばかりだ。県人選手の姿から感じられるように、本来スポーツは、真摯に取り組む姿や勝負の妙によって、人々を勇気づけるものだ。
しかし、こうした選手たちの勇姿とは反対に、運営組織体のお粗末さが取り沙汰され、残念だ。日本相撲協会、全日本柔道連盟のゴタゴタに続き、今後はプロ野球の統一球変更の不手際が明るみに出た。
これは、スポーツ界のみならず、他の企業や組織にも共通する事柄だ。
高橋氏は本書で、こうした不祥事を起こすような組織を「不作為の状態」と呼び、あってはならない状態としている。これは「あえて積極的な行為をしない状態」であり、いわゆる大組織病と言い換えることができよう。
大組織では、本来の目的が忘れられ、日々の手段が目的化し「不作為の状態」に陥りがちだ。
それを防ぐには、幹部は思考停止用語や思考停止態度を厳に慎むべきと、氏は指摘する。
思考停止とは、頭を働かせない、脳の活動を委縮させる、やる気や元気をそぎ落とす、心を折ってしまう、というような状態のことだ。
いわゆる「固まった」状態にメンバーを追い込む劣悪な状況であり、メンバーは「積極的に動かない」ので、組織は停滞・退潮し、個性も発揮されない。
もしかしたら雄星投手も数年前にはこうした状況の中で伸び悩んだのかもしれない。
また、ある企業では顧客第一・社員優先という方針を掲げる社長が、それとは裏腹に顧客への不誠実な対応が常態化していた。
いくら「社員さん」と猫なで声で呼ばれても、言行不一致の社長には信頼感など持てず、「不作為の状態」となり、組織は停滞し退職者が続出した。これは県外企業の例だが、県内経営者は他山の石としたい。
一方、紆余曲折を経て日ハム入りした大谷選手の見事な活躍ぶりはどうか。それは、栗山監督以下のチーム内が「不作為の状態」と対極の「革新軌道にある状態」にあるという見方ができる。
この「革新軌道にある状態」では、望ましい状態(理想・ビジョン・志・目標)の実現に向けて、なすべきことが明確化される。それが次々実行され、問題も積極的に提起・共有され、解決に向けた行動がスピーディーにとられる。
大谷選手や今年の雄星投手の場合は、こうした革新軌道の組織で育まれ、本来の“個”が伸びやかに発揮されている。
高橋氏の著書では、組織のあるべき姿「革新軌道にある状態」とそこに至る道筋も明快に説明されている。現場を踏まえ実態に即しているので、賢明なリーダー諸氏には是非ご一読願いたい。
出典:岩手日報「いわての風」(2013年6月30日)寄稿記事へのリンク
「経営の腑」第427号<通算742号>(2025年7月18日)
前向き経営者に寄り添う 〜「客」「収益性」が要諦〜
出典:岩手日報「いわての風」寄稿記事(第26回目 2013年10月27日)
地元の信用金庫や市町村などの出資によって昨年立ち上がった「もりおか起業ファンド」の投資先は5社を数えた。かつてはファンドといえば「ハゲタカ」などとやゆされたこともあったが、このファンドの目的は創成期にある地域企業が最も経営の不安定な時期にかじ取りを間違えないように支え成長してもらおうというもので、投資額そのものは数百万円程度と小規模だ。
その活動の最大のキモは、投資先企業の経営に対して密接に関与していくところだ。
投資先の経営者に寄り添い、月次チェックを重ね、業務サイクルPDCA(プラン計画〜ドゥ実行〜チェック評価〜アクション改善、の頭文字)を回しながら業績向上に励んでいる。
既に黒字化はもとより大幅に業績を伸ばしている投資先もあり、今後も大いに楽しみだ。今回はこうした企業群を含め、業績が好調な企業の共通点、いわば業績向上の要諦を2点に絞って述べたいと思う。
第1点は、「お客さまありき」を徹底することだ。企業経営の源となる収入はすべて「お客さま」が支払ってくれるものだから、ここがすべての原点であることを忘れてはならない。
その意味で、迷ったり悩んだりした時は、お客さまに教えを請うのが一番だ。最良の経営助言者は、職業コンサルタントなどではなく、「お客さま」そのものなのだ。
そして、お付き合いする限りは、とことんご要望に応えることだ。要望に応じれば、喜んで代金を払ってくれるのも「お客さま」なのだから。
ただし、企業が尽くしている割に、評価をしてもらえない場合もあるから、やはり事業は難しい。
たとえば、たくさん手間をかけてご要望にお応えしたのに、代金の方は値引かれるようなケースだ。日常的に頻繁に起こり、どの企業でも頭を痛める。
これにどう当たればいいか? それを解決するのが、第2の要諦だ。
それは「収益性を正しく把握する」仕組みを持つことである。
事業経営で陥る大きなワナの一つに、財務会計方式だけで収益性を判断しようとして、個別商品や顧客ごとの収益性が正確に把握できないことが挙げられる。
詳細は専門的になるので省略するが、その対策として管理会計という別の方法が考えられた。平たくいうと、管理会計は「どうやったら、もうかるの?」を検討するための会計である。
従って、まずは財務会計を管理会計に組み替える必要がある。この管理会計の重要性については、JALの経営再建で名をはせた稲盛和夫氏も常に指摘しており、京セラのアメーバ経営も管理会計なしでは成り立たないのである。
蛇足だが、私が推奨するやり方は、アメーバ式よりかなりシンプルで中小企業向きだ。
いずれ、第1の「お客さま」志向に徹したとしても、第2の「収益性」を正しく把握しないと、事業経営は維持継続できないので、二つの両立が事業経営の要諦となる。
このことを経営者が心底理解し納得して取り組むことで、目指すべき方向や取るべき戦術が明確になり、見違えるように業績が好転する。
本欄で繰り返しているが、私のもっぱらの関心は社長ではなく、そこで真面目に働いている従業員の皆さんにある。業績が低迷し不本意な待遇に甘んじている従業員に何の経営責任もない。
そうした状況を打破するのはひとえに社長の力量による。だから、一人でも多くの経営者が真に自律した社長として活躍できるようになってもらうことが、当地で真面目に励んでいる従業員の皆さんに報いることにつながる。だから、今後もこうした活動に心して取り組んでいくつもりだ。
出典:岩手日報「いわての風」(2013年10月27日)寄稿記事へのリンク