「経営の腑」第241号<通算556号>(2018年6月29日)
人的資源に関する目標 一倉定著「経営計画・資金運用」(社長学シリーズ第2巻:1976年刊)より
人的資源には、質的資源と量的資源がある。目標として、具体的にかかげる場合には、量的になるのは止むを得ない。質的なものは、量の中に含まれると考えるのである。
我社の人的資源はいくらあるか。目標を達成するために、不足することは分かっている場合でも、十分な人員を確保しようとすれば、たちまち人件費の高騰である。とすれば、やたらな増員はできない。利益計画の中の人件費の枠内で考えるより外にないのである。それは限られた人的資源を、どのような活動に、どのように配分するか、ということである。当然のこととして、すべての活動をすべて満足させることはできない。どうしても重点主義を取らざるを得ないのである。
ところが、ここにあるのが、マネジメント論と称する全く誤った理論である。その理論は、組織とか職制を第一義に考え、次元の低い日常の繰り返し仕事に焦点を合わせている。
その理論に従って、人的資源を管理的業務に重点的に配置するという、誤った重点主義をとっている会社が多すぎる。管理業務に、いかに優れた人的資源を投入しようとも、管理に要する費用を賄うに足るかどうか疑わしい程度の収益を上げることができることは、まれなのである。
優れた社長はこのような誤りを犯さないものである。あくまでも経済的成果達成に焦点を合わせるのである。
経済的成果をあげる活動には二つある。一つは今日の収益をあげるための営業活動であり、もう一つは明日の収益をあげるための開発活動である。
だから、まず、この二つの活動に重点的に配分しなければならない。次には供給体制の整備に必要な活動部門への配分である。そして、残った人員を管理部門にあてるのである。
もともと不足する人員を、重要度に応じて配分していくのであるから、最後になる管理部門の人員が不足するのは致し方ないがない。
良くても悪くても、こうするより外にないのである。このような観点から見ても、管理は“最小限管理”を指向しなければならないといえよう。
セキやんコメント: 質的・量的な見方は、生産性にも当てはまると一倉は述べている。中小企業の社長が秘書を持つことは贅沢に見えるけれども社長業務の質的向上に大いに役立つし、サービスパーツを十分準備するのは在庫増大を招くが顧客サービスの向上ひいてはわが社の信用を高める、と例示している。
「経営の腑」第242号(通算557号)(2018年7月13日)
方針書こそ経営計画の魂 一倉定著「経営計画・資金運用」(社長学シリーズ第2巻:1976年刊)より
「最近、やっと経営計画の意味が分かってきました。それは、目標だけ立ててもダメだということです。目標を達成するために、いったいどうしたらいいのか、ということが大切なのですね。それは、社員に聞いてもダメだし、他人に聞いてもダメですね。一倉さんには失礼な言い方かもしれませんが、一倉さんの意見は貴重なものですが、それをきいて鵜呑みにしてみても、それは自分のものにはなりません。自分でよくよく考えて、どうしなければならないか、を決めるのでなければ、本物ではありません。自分で決めたことは、どうしてもやり遂げなければならない、という執念が生まれてきます。そのために、我社では年毎に業績の向上と内容の充実が実現しています。経営計画というのは本当に素晴らしい道具ですね」と、これは、T社長の言である。私はこれをきいて嬉しくなった。
T社には、もう三年のお付き合いで、お伺いした当時は、業績も芳しくなく、過去数年は試行錯誤の繰り返しであった。いくつかの新商品は思わしくなかった。販売も、問屋を通したり、小売店直売をやってみたりした。そして、小売店直売方式で大きな痛手を受けていた。数々の失敗の末に、やっと突破口らしいものを見つけたところで、それもどうなることやら分からず、社長は自信喪失気味だったのである。
私は、「社長自ら我社の経営をどうするかを決めなければダメだ。一倉にうまいやり方をききたい、と思われても、一倉はあなたの会社のことは何も知らないのだから、できるわけはない。一倉にできるのは、社長として何をどのように考え、どのような事を決めなければならないか、ということであって、どのような事の中身は社長が決めるのだ」と社長に申し上げたのである。
それを、経営計画という道具によって行ったのである。初めての経営計画は、文字通り、手取り足取り、事柄によっては“イロハのイ”から教えなければならなかった。
こうして、計画が進んでいくうちに、T社長は、「僕は今まで何をしていたのだろうか」と言い出した。社長としての仕事を何もしていなかった、という意味である。計画を立てているうちに、社長自身が変わってしまったのである。
同時に、T社の業績は立ち直った。第二回以降の経営計画は、もう細かいことに私が口を出すことはなくなった。基本方針についてだけ、社長の相談にのっているのである。そして、三年目の経営計画の相談の時に、冒頭に掲げたようなT社長の言がきけたのである。
もう、T社に対しては、私の助言はT社長からの特別のもの以外は必要なく、安心してみておられるのだ。
T社長の言のように、経営計画は目標だけ立てても何にもならない。目標は“仏”であって“魂”ではないのだ。仏をつくっても魂を入れないのでは“生命”をもたないからである。
その“魂”こそ、「どのようにして、その目標を達成するか」である。これを、社長は自らの意思で決めるのである。そして、その決定を明文化するのである。これこそ、社長の役割の最も基本なのである。
方針書には、三つの要件がある。それは、
1.我社の将来に関するものであること 2.社長の姿勢を示すものであること 3.具体的であること
である。(詳しくは、次号に続く)
セキやんコメント: この“魂”入れの作業は、矛盾と不可能との戦いとなり、社長は夜も眠られなくなるが、社長が正面からこれに立ち向かっていくことが、活路を見出す唯一の手立てだ。そして、それは市場・顧客にしっかりと向き合い、そこから教えてもらうしかないのだ。
「経営の腑」第243号(通算558号)(2018年7月27日)
方針書の要件、その1 一倉定著「経営計画・資金運用」(社長学シリーズ第2巻:1976年刊)より
まず、第一の「我社の将来に関すること」であるが、不思議なことに、世の中の多くの経営計画の最初に来るのは、「我社の過去」に関することであるのは、いったいどうしたことなのであろうか。
某社のごときは、百ページにも及ぶ経営計画書の半分が、「我社の過去の業績とその反省」と題するものであった。また別の会社では、経営計画書のうち、たった1ページだけが計画で、あとは全部過去のことを記述していた、という極端な例がある。これでは経営計画書ではなくて「営業報告書」である。
計画というものは、「将来のことを決める」ことである。だから、計画書とは将来に関することだけを書けばよいのであって、過去にふれる必要は全くないのである。
それにもかかわらず、過去のことをまず計画書にうたうのは何故だろうか。ここに考えなければならないことがある。
というのは、そういう会社は「後ろ向き経営」をやっているのだ。過去の数字、過去の実績、過去の原価、過去の失敗……と、過去ばかり見ている。いくら過去を考え、過去を分析しても、どうにもなるものではない。
だから、「死んだ子の歳を数える」ことはやめなければならない。全くの時間のムダなのである。
これに対する反論は決まっている。過去を反省し研究することは必要である。そこから我社の欠陥はどこにあるか、どうすればいいか、ということを見つけだせるからだ、というのである。一応はもっともである。ところが、このような人に、「では、将来どうしたらいいか」という質問をぶつけてみると、過去のことについては、うまくいかなかった原因や、詳細な理由の説明は実に的確にするけれども、将来の見通しや、我社はこうしなければならないということになると、とたんに精彩がなくなってしまうから面白い。口では何といっても、実際には過去ばかり見ていて、将来のことを考えるひまはないのである。
「あの時はこうすればよかった」といってみても、今さらどうにもならないのだ。
だから、過去を云々することは止めるべきである。これは、過去を無視せよ、というのではない。過去の実績を見ることは大切である。しかしそれは、過去の研究ではなくて“確認”のためである。将来を考えるには、いま自分の立っているところを知らなければならないからである。
馬車で長旅をする時のことを考えてみよう。目的地に予定通り着くためには、途中で遅れた場合に、「何故遅れたか」を考えても意味はない。遅れをどうして取り戻すか、だけを考えればいいのだ。そのためには、現在地を確認しなければならないのはいうまでもない。
このたとえのように、我々は、目標達成のためには、「これからどうするか」だけを考えればよい。そのためには、現状を確認する必要がある。しかし現状がこうなっている理由など全く必要ないのだ。
だから、方針書には過去のことにふれる必要は全くないばかりか、これにふれることは明らかに誤りなのである。
事業経営は、あくまでも前向きのものだ。社長として、我社の将来をこのようなものにする、という目標を掲げ、そのためには、これから何をしなければならないか、を方針書に明示するのである。(次号に続く)
セキやんコメント: 社長の姿勢として、「未来志向」「外部志向」「構造志向」の3つが必要だと一倉は述べている。経営計画に取り組む際には、その中の「未来志向」で取り組むべき、との指摘である。事業計画発表会で長々と過去の実績の説明を聞くことも少なくないが、全くナンセンスかつ時間のムダである。
「経営の腑」第244号(通算559号)(2018年8月10日)
方針書の要件、その2・3 一倉定著「経営計画・資金運用」(社長学シリーズ第2巻:1976年刊)より
二番目は、「社長の姿勢を示すものでなければならない」ということである。
私が、社長に方針書を書くようにお願いすると、まずほとんどの社長が、始めのうちは自らの姿勢を示さずに、“社員の姿勢”を要求する。
それは、一人一人が経営者の自覚を持たなくてはならない、というようなことから始まって、実に様々な要求を書き並べる。これは、社長がいかに社員の仕事のやり方に多くの不満を持っているか、をまざまざと示している。どうも、社長族というものは、事業経営がうまくいくかいかないかは、社員の働き如何にかかっていると思い込んでいるらしい。
そうでなければ、こんなにも社員のことをあれこれ言うはずがない。
社員の働きによって会社の業績が左右されると思い込むほど、社長として大きな誤りはない。会社の業績は社長の姿勢で決まることは、すでに何回も述べてきた。しかし、何回でも繰り返したくなるのが、私の気持ちなのである。
方針書というものは、社長として、我社の経営をこうする、ということを示すものであるから、社長の考えだけを書けばいいのであって、それ以外のことをあれこれ書くと、かえって焦点がボケてしまうのである。
三番目は、「具体的であること」である。これは、やさしいようでいて、意外なほど難しいのである。どうしても始めのうちは「販売体勢の強化」「生産性向上」「不良撲滅」というような、抽象論というよりは、スローガンめいたものになってしまう。これでは、社長の意図は分かっても、具体的にどうするのかはさっぱり分からない。
販売体勢を強化するために、人員を増加するのかしないのか、販売地域は現状のままなのか、拡大あるいは戦線整理をするのか、どの地域を重点地域にするのか、というようなことを明らかにする必要がある。
生産性向上のためには、内外作の区分をどうするのか、配置転換、設備投資、設計変更などをどうするのかを示してやるのだ。
不良撲滅を実現したいなら、何からやるかという優先順位とか、不良率の目標を何%以下にするとか、というようなことを書く必要がある。
といっても、方針書であるから、あまり細かいことを書く必要はない。要は明確な方向づけと、急所を示すことである。
そして、これらは箇条書きとするのがよい。だらだらと長ったらしい文章では分かりにくい。項目ごとに標題をつけて、それに簡潔な文章で要点を強調してゆくのである。
以上三つの要件をふまえて、では具体的にどんなことを書けばよいのだろうか。(次号に続く)
セキやんコメント: 二番目の指摘「社長自身の姿勢」が計画書策定の最大ポイントである。そして、明文化して共有するからには、三番目の「具体的」という要素もしっかりと抑えなければならない。方針書の目的からして、決して社長のマイワールドに留まってはならないからである。
「経営の腑」第245号(通算560号)(2018年8月24日)
方針書の項目、具体例 一倉定著「経営計画・資金運用」(社長学シリーズ第2巻:1976年刊)より
今まで述べてきた三要件などを踏まえ、ごく一般的な事柄をあげてみよう。
1.基本方針
2.商品に関する方針
3.得意先に関する方針
4.販売促進の方針
5.未来事業に関する方針
6.内部体制整備の方針
というところであろう。
基本方針というのは、事業経営に関する最も基本的なもので、これによって会社の進む方向を明らかにするのである。
私は、基本方針の冒頭に二つのことをまず掲げることを勧告することにしている。その一つは「顧客第一主義」であり、もう一つは「重点主義」である。
どちらも「経営戦略篇」で詳しく説明したので、内容はそちらに譲るとして、私が言いたいのは、どちらも、どの会社にとっても最重要なものであるにもかかわらず、最も弱いことだからである。
以上の二つを踏まえて、次には「事業構造」である。どんな事業に力を入れ、どんな事業を淘汰していくのか、市場活動をどうするのか、供給体勢をどう組むのか、というようなことである。
次には、基本方針を踏まえての、個別の方針である。
個別方針の第一番目の「商品に関する方針」は、個々の商品(共通の特性をもった商品が多数ある時には、それらを一括して「商品群」として扱えばよい)についての方針である。
まず、ランク付けをする。ランクは、最重点商品、重点商品、伸長商品、安定商品、成行商品、淘汰商品というようにすると分かりやすい。
そして、それぞれに対する必要な活動または対策などを示してゆくのである。たとえば ○品質を改良したい商品、手に入れたい品質は何か ○占有率の目標をいくらにするか
○付加価値率の目標をいくらにするか ○類似品の整理統合をどう進めるか
○売上増大の必要な商品は付加価値率をいくらまで下げてもよいか
○在庫を十分に持って品切れを起こさない商品と、思い切って在庫を圧縮する商品は何か、それぞれの在庫基準をいくらにするか
○在庫を持たずに受注後手配する商品は何か ○淘汰商品は売止めの時期をいつにするか
○その他、社長がこうしたい、と思う事項 などである。
個別方針の第二番目の「得意先に関する方針」についても、第一に、最重点得意先、重点得意先、安定得意先、成行得意先、淘汰する得意先にランク付けを行うのは、商品の場合と同じである。
セキやんコメント: 基本方針に「顧客第一主義」と「重点主義」は欠かせない、というより事業経営の根っこである。その推進のため、我社の「事業構造」はいかにすべきかを、具体的に「個別方針」に掲げる。だから、商品〜得意先、そして販売促進方法、さらに未来事業の構想、そのための内部体制の整備となるのだ。